現在放送中のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、明治日本の急速な西洋化の中で埋もれていった人々の姿を描いています。主人公・松野トキ(髙石あかり)の母、フミ役を演じるのは、2001年の『ほんまもん』以来24年ぶりに朝ドラ復帰を果たした池脇千鶴。彼女の起用背景と、物語そして撮影現場に与えるその絶大な影響力について掘り下げます。
池脇千鶴、24年ぶりの朝ドラ出演への道のり
制作統括の橋爪國臣氏によると、松野家の配役に関して祖父役と父役は「小日向文世さんと岡部たかしさんにお願いすれば面白くなる」とすぐに決まった一方で、フミ役についてはかなりの悩みを抱えていたといいます。「この役はコメディエンヌでありながらコメディに傾きすぎてはいけない、かといって重くなりすぎず、家族をまとめ上げる力が必要だ」と感じていたからです。多くの候補が検討された結果、最終的にたどり着いた結論は「池脇しかいない」という確信でした。
ダメ元でオファーしたという橋爪氏は、池脇千鶴からの早期の返答に安堵の胸をなでおろしました。その決断は、ドラマの根幹を支える重要なものでした。
連続テレビ小説『ばけばけ』の撮影風景
現場における池脇千鶴の存在感と『ばけばけ』への貢献
橋爪氏の狙いは見事に実現しました。髙石あかりや岡部たかし、小日向文世といった個性豊かなキャストが「好き放題」に芝居をする中で、池脇千鶴演じるフミは、まるで楔を打つように彼らを繋ぎ止め、物語をどっしりとまとめ上げています。コミカルな場面でも、彼女が放つ「ちょっとした何か」がリアルな笑いへと引き戻す力を持っていると評価されています。
主演の髙石あかりも池脇千鶴に絶大な信頼を寄せており、橋爪氏は「朝ドラヒロイン経験者としての豊富な現場経験から、『もっとこうしたらいいのでは』というアイデアを数多く提供してくれる」と感謝の意を述べています。役柄としてだけでなく、バックグラウンドからも現場を引っ張るその姿は、まさに「現場のお母さん」のよう。常に家族を見守り、必要な時にそっと現れるような存在感が、ドラマ全体の土台を強くしています。
フミの心情が爆発した名シーン:家族の絆と覚悟
特に第35話では、フミの育ての親としての複雑な心情が爆発する場面が描かれました。「おタエ様(北川景子)のためなら、ラシャメンになってもええと思った。産んでくれたおタエ様のためなら」というフミの言葉は、多くの視聴者の心に深く響きました。
このシーンの撮影について、橋爪氏は「あの爆発力は本当にすごい。監督も『絶対に撮り逃さないぞ』という緊張感で臨んだ」と語ります。トキがフミへの思いを語る中で、三之丞(板垣李光人)は「私はおトキの家族から外してほしい。私は自分の力で母を救いたい」とお金を返そうとしますが、トキは「私を見て。自分を捨てたの。自分を捨てて、家族のためにラシャメンになろうとしたの」と三之丞の甘さを一蹴します。ここには、大好きな家族を守ると決めたトキの強い覚悟が詰まっていました。
ドラマ『ばけばけ』で傷ついた状態のタエさん(北川景子)
橋爪氏はこの場面を「トキと三之丞のシーンに見えて、実はフミのシーン」と分析しています。これまでの育ての親としてのプライドや娘への愛情が否定されたと感じていたフミが、トキの本当の気持ちを知って納得する瞬間が描かれているのです。池脇千鶴がその思いをどっしりと受け止めるからこそ、髙石あかりも自由に演技ができ、三之丞の思いも際立ちました。このシーンは、松野家が「真の家族になれた」ことを象徴しており、制作陣の狙いが視聴者に伝わったことを橋爪氏は願っています。
結論:物語と現場を支える池脇千鶴の存在
ヒロインから母親役へ。時を経て朝ドラへと戻ってきた池脇千鶴は、『ばけばけ』の物語の深みを増すだけでなく、撮影現場においても欠かせない存在となっています。ヘブン(トミー・バストウ)の女中になると決めたトキを支えるフミの今後の活躍に、引き続き注目が集まります。





