『ドラゴン桜2』に学ぶ:計画倒れを防ぐ東大生流「拡散型・保全型」勉強法

受験勉強において、多くの学生が直面するのが「計画倒れ」という共通の課題です。綿密に立てたはずの学習計画が、いつの間にか形骸化し、本来の目的を見失ってしまうことは珍しくありません。東京大学の現役合格を目指す学生たちもまた、この問題に頭を悩ませています。本稿では、三田紀房氏の人気漫画『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生・土田淳真氏の視点から、計画的な勉強法における「落とし穴」と、それを乗り越えるための実践的なアプローチについて深く掘り下げていきます。

「完璧な計画」の落とし穴:なぜ計画は挫折するのか?

夏休みの勉強計画を練る天野晃一郎と早瀬菜緒に対し、担任の水野直美は「拡散型」と「保全型」という二つの勉強方法を提示します。「拡散型」は複数の問題集に手を広げ実践を重視するタイプ、「保全型」は一つの問題集をコツコツと計画通りに進めるタイプです。多くの学生が理想とするのは「保全型」でしょう。目標を明確にし、定められた一冊の問題集を最初から着実にこなしていく。しかし、この「完璧な計画」にはいくつかの潜在的な問題が隠されています。

三田紀房の人気漫画『ドラゴン桜2』から、受験生と教師が学習計画について議論する場面三田紀房の人気漫画『ドラゴン桜2』から、受験生と教師が学習計画について議論する場面

現実には、ほとんどの人が立てた計画を完璧に実行することはできません。計画を立てたにもかかわらず、未消化の課題が積み重なり、最終的には計画自体が形骸化してしまった経験は誰にでもあるはずです。さらに根本的な問いとして、「完璧な計画」とは一体何でしょうか。個々の学習スタイルが異なるにもかかわらず、時間をかけて考案された計画は、あたかもそれが絶対的なものかのように錯覚させます。そして、完璧であればあるほど、その計画を修正することへの心理的ハードルが高まるのです。これは、現状を維持しようとする「現状維持バイアス」や、投じた努力や時間を無駄にしたくない「サンクコスト効果」といった心理的なメカニズムが働くためです。現在の学習方法が非効率だと理解していても、一度決めた計画を固執して実行したがる現象は、受験勉強に限らず多くの場面で見られます。

計画を成功させる鍵:柔軟な「計画修正」の導入

このような「計画倒れ」を防ぐためのおすすめの対処法は、「計画そのものを変更すること」をあらかじめ計画に組み込むことです。例えば、週に1日は予備日として設け、その週にやり残した課題をこなすという方法はよく知られています。しかし、一歩進んで「計画そのものを修正する日」を設定するのも有効な戦略です。

そのためには、立てた学習計画が順調に進んでいるのか、あるいは修正が必要なのかを判断するための明確な指標が不可欠です。問題集を解くペース、正答率、学習効率などを定期的に評価することで、計画の有効性を客観的に測ることができます。例えば、決められたペースで進んでいても、採点してみると間違いが多いようでは、その勉強法には意味がありません。時には思い切って別の問題集に手を出すことも、「計画を変える」選択肢の一つとなります。

「問題集の浮気」などと忌避されがちな「拡散型」の勉強法にも、実はメリットがあります。自身の学習スタイルを見つけるという明確な目的があれば、一つの問題集や参考書に固執せず、多角的に試してみることは非常に価値があります。もし「何か違うな」と感じた場合は、その原因を深く掘り下げることが重要です。合わない原因は難易度だけとは限りません。フォントや色味といったデザインが集中を妨げている可能性もあります。

「保全型」の計画が真に機能するのは、それが「正しい計画」であり、「正しい速度」で継続されている場合に限られます。しかし、「何が正しいのか」は個人によって異なり、普遍的な答えはどこにも書かれていません。「拡散型」と「保全型」のどちらかに偏るのではなく、まずは様々な方法を試し、その中で自分に最適なものを見つけて集中していくのが、受験勉強における王道と言えるでしょう。

結論

受験勉強の成功は、単に完璧な計画を立てることではなく、その計画を柔軟に評価し、必要に応じて修正していく能力にかかっています。「完璧な計画」の幻想に囚われず、「計画修正」を前提とした柔軟なアプローチこそが、東大生が実践する学習戦略の核心です。自身の学習状況を常に客観的に分析し、最適な方法を積極的に探求することで、誰もが「計画倒れ」を乗り越え、目標達成へと近づくことができるでしょう。

参考資料

  • 三田紀房『ドラゴン桜2』(コルク)
  • 土田淳真(現役東大生 文科二類)による分析記事(元の記事を基にしています)