人生100年時代を迎え、長く生きることへの期待が高まる一方で、その道のりには多くの「長寿リスク」が潜んでいます。社会学者の山田昌弘氏の著書『単身リスク 「100年人生」をどう生きるか』(朝日新書)が指摘するように、現代社会において特に注目すべきは、子どもが親に経済的、あるいは精神的に依存し、実家に戻ってくる「パラサイト・リターン」と呼ばれる現象です。この新たなリスクは、子育てを終え、ようやく自分の時間を手に入れたはずの50代以上の親世代に、予期せぬ負担と「老後不安」をもたらしています。
日本社会の現状:50代独身者の増加と「長寿リスク」の多様化
現代の日本社会は、独身者が増加の一途を辿っています。2020年の国勢調査によると、50代男性の3分の1、女性の3割が独身であることが明らかになりました。独身であること自体に問題があるわけではなく、自由や気ままさを享受する側面もあります。しかし、「人生100年時代」における独身者の将来不安は深刻であり、多岐にわたる「長寿リスク」に直面しています。
まず、自身が高齢になった際に「誰に介護されるのか、その費用をどう捻出するのか」という「介護リスク」は、独身者にとって特に切実な問題です。さらに、長生きするほどに配偶者との死別や離婚、頼りにしていた家族や親しい友との別れが増え、「家族や親しい友がいなくなるリスク」、つまり孤独のリスクも高まります。
独身高齢者の深刻な「老後不安」
このような背景の中、2022年に実施された1126人へのネット調査(山田昌弘氏による)では、「50代独身者の将来不安」が浮き彫りになりました。「十分な介護が受けられなくなる」(79.1%)、「経済的に十分な生活ができなくなる」(77.1%)、「孤独死してしまう」(74.7%)といった項目が上位を占め、独身高齢者の7〜9割近くが、長生きすることに強い不安を抱いていることが示されています。これらの数値は、単なる漠然とした不安ではなく、具体的な生活課題として認識されている実態を物語っています。
社会学者・山田昌弘氏の著書『単身リスク 「100年人生」をどう生きるか』の表紙
新たな「長寿リスク」:「パラサイト・リターン」の台頭
前述の「老後不安」とは対照的に、近年顕著に増加しているのが「家族に頼られるリスク」です。これは、結婚し子育てを終え、ようやく自分の時間を取り戻したと思った矢先に、成人した子どもが失業、離婚、あるいは病気などの理由で実家に戻り、親に依存するようになる「パラサイト・リターン」現象を指します。
子どもが親の元に戻ってくるケースでは、過度の経済的依存に発展しないまでも、親が再び家事、育児、介護の担い手としての役割を求められたり、金銭的な支援を要求されたりすることが少なくありません。これは、親世代が想定していなかった新たな「長寿リスク」であり、高齢期における生活設計や精神的な平穏を大きく揺るがす要因となっています。
複雑化する「長寿リスク」への認識と備え
「人生100年時代」における「長寿リスク」は、個人の健康や経済状況だけでなく、家族構成や社会の変化によって多角的に複雑化しています。自身の「単身リスク」に対する備えに加え、「パラサイト・リターン」のような家族からの予期せぬ依存リスクにも目を向け、早期から認識し、対策を講じることが重要です。現代社会において、豊かな老後を築くためには、多様なリスクを理解し、柔軟に対応していく姿勢が求められます。
参考文献
- 山田昌弘. (2025). 『単身リスク 「100年人生」をどう生きるか』 朝日新書.
- 総務省統計局. (2020). 国勢調査報告.
- Yahoo!ニュース – 長生きのつもりが「まさかの人生」に…50代の3分の1が独身「老後不安」を凌駕する「家族に頼られるリスク」とは





