東京の再開発:失われる「文化」か、進化する「利便性」か?世代間で異なる街への価値観

忘年会シーズンが到来し、東京の賑やかな街へと繰り出す人も多いだろう。新宿、渋谷、下北沢といった主要都市は常に再開発が進み、その姿を大きく変え続けている。かつての街並みを知る人々は、新しくなった光景を見て「昔の方が良かった」とつぶやくことが少なくない。しかし、この感情は本当に普遍的なものなのだろうか?再開発以前の街を「良い」と感じる気持ちは、ある特定の世代以上のものではないだろうか、という問いが浮上する。本稿では、東京の街の変貌を巡る世代間の価値観の相違について深く掘り下げる。

「変わる街」への複雑な感情:中高年層の視点

都市の再開発、特に大手デベロッパーや鉄道会社による大規模プロジェクトが数年にわたり続いていることに対し、中高年層にはしばしば否定的な感情が伴う。筆者もまた、40代以上の友人や仕事関係者から、「昔は街にもっと風情があった」といった同意を求められることが多い。彼らの不満は、街から「文化」が失われたという嘆きに集約される傾向にある。個性的な店が姿を消し、グローバリズムに飲み込まれ、きれいな商業施設には画一的な有名店ばかりが入っている、といった意見が聞かれる。

具体的には、東京の代表的な街について、以下のような声が挙げられる。

  • 新宿: 「かつての歌舞伎町の猥雑さが失われた」「駅周辺がオフィスビルとチェーン店ばかりになった」「昔ながらの飲み屋が減った」
  • 渋谷: 「パワフルな若者の流行発信地ではなくなった」「大規模な商業施設が駅前にニョキニョキ建ちすぎ」「駅の地下が地下迷宮のように複雑」
  • 下北沢: 「駅前が整然としすぎて趣が消えた」「古着文化や演劇文化の存在感が薄れた」「観光地化が進みすぎ」

これらの意見の根底には、街が本来持っていた多様性や個性が失われ、均質化されていくことへの強い抵抗があると言える。

都市再開発を象徴するイメージイラスト都市再開発を象徴するイメージイラスト

街に求められる価値の変遷:文化から利便性・機能性へ

一方で、このような「昔の方が良かった」という感情に対し、別の見方も存在する。そもそも、ある世代より下の若者たちは、街という物理空間に特定の文化を強く背負わせるという発想を、中高年以上の世代ほど持っていないのではないかという指摘があるのだ。かつての渋谷や新宿、下北沢は、特定の志向や嗜好を持つ人々が集まり、その熱量やグルーヴが堆積することで固有の文化が形成されてきた。顔の立った街は、例外なくそうした歴史を持つ。

しかし、現代において、特定の志向や嗜好を持つ人々が集まる場所は、必ずしも物理空間である必要がなくなった。インターネット上の多様なコミュニティや各種SNSが、「場」を形成し、情報交換、交流、推し活、さらには経済活動までもが、ほぼオンラインで完結できるようになったからである。ZOOMやチャット、翻訳アプリの普及は、居住地や言語の壁すら超えたコミュニケーションを可能にした。

これは、世代に関わらず「多数派の価値観」が変化した結果である可能性も示唆している。かつて街に期待されていたのは「文化的固有性」だったが、今、期待されているのは「利便性と機能性」なのだ。この変化は、再開発をむしろ好意的に捉える人々の声からも明らかになる。

  • 新宿: 「東西通路ができて移動が楽になった」「歌舞伎町が以前より安全になった」
  • 渋谷: 「スタートアップやIT企業が集まりビジネスが活性化した」「観光客用のショッピング施設や食事施設が充実した」
  • 下北沢: 「駅前が整理されて全方向に移動しやすくなった」「駅がバリアフリー化された」「一見さんでも入りやすいおしゃれなカフェなどが増えた」

これらの意見は、すべて利便性と機能性に帰結するメリットであり、現代の都市が求める本質的な価値が変化していることを示している。

再開発に難色を示す人々の職業を筆者の観測範囲で挙げると、新宿では出版、新聞、映画、大学関係者が多く、渋谷や下北沢ではそれに演劇、音楽、デザイン、ファッション関係者が加わる。「自分は文化や知に仕えている」という意識が高い人々だ。逆に、文化や知に仕えている意識がことさら高くない人々は、街という物理空間にそこまで文化を背負わせない。彼らは利便性の促進と引き換えに、文化的な退色を抵抗なく受け入れる傾向にある。

あくまで体感ではあるが、現状の風向きとして、この「利便性・機能性重視」の価値観を持つ層が優勢になりつつあると考えられる。

まとめ:都市の未来像と価値観の多様性

東京の主要都市で進む再開発は、単なる物理的な変化に留まらず、そこに住み、活動する人々の街に対する価値観の大きな転換を浮き彫りにしている。過去を懐かしみ、街の「文化」が失われることを憂える声がある一方で、現代のニーズに合わせた「利便性」や「機能性」の向上を歓迎する声も少なくない。 この世代間のギャップ、あるいは多数派の価値観の変化は、オンラインコミュニティの発展やグローバル化といった社会全体の潮流と密接に関連している。

今後、都市開発を進める上では、単に経済効率や機能性だけでなく、街が持つ歴史や文化的な側面をどう保存し、新たな価値として再構築していくかが、より一層重要な課題となるだろう。同時に、多様な価値観を持つ住民や利用者の声をどのように統合し、共生できる未来の街を創造していくかが問われている。

参考文献:
ニュース Yahoo! JAPAN