始動したばかりの政権が、永田町・霞が関を揺るがす全面戦争の火蓋を切った。積極財政を掲げる高市早苗首相は、最大の障壁となる財務省を中心とした「増税マフィア」に対し、閣僚人事などで正面から戦いを挑んでいる。これに対し、財務省サイドも水面下で反撃の準備を着々と進め、政権発足早々、事態は風雲急を告げている。本稿では、自民党税制調査会(党税調)人事を巡る攻防に焦点を当て、財務省がどのようにして「高市包囲網」を築き上げているのかを詳述する。
高市首相の積極財政と「増税マフィア」への挑戦
高市首相は、財務省に対し「喧嘩上等」の姿勢を見せている。その第一歩として、「増税派の総本山」とされる自民党税制調査会(以下、党税調)の切り崩しを図った。増税派の「ラスボス」と称される宮沢洋一党税調会長を交代させ、「財務省出身者で固められたもの」と批判される党税調の非公式幹部会、いわゆる「税調インナー」の解体をも示唆している。これは、党税調が財務省シンパの議員によって牛耳られている現状を打破し、自身の掲げる積極財政路線を推進するための強い意志の表れである。当然、財務省からの猛烈な反発が予想された。
新「ラスボス」小野寺五典氏の登場と財務省の「包囲網」
高市首相の攻勢に対し、一見防戦一方に見える財務省だが、その裏では高市首相の積極財政路線を骨抜きにするため、自民党中枢に巧妙な「包囲網」を張り巡らせていた。そのキーマンの一人が、宮沢氏に代わって党税調の新会長に就任した小野寺五典前政調会長だ。
高市首相の積極財政に立ちはだかる財務省の「包囲網」を象徴する小野寺五典氏(左)と小林鷹之氏(右)。
小野寺氏は財務官僚OBではなく、税調インナーの経験もないことから、高市首相は「財務省寄りではない」と判断し、税調改革を任せた人物とされる。しかし、彼は積極財政派ではない。元自民党政務調査会調査役で、政策決定の舞台裏を知る政治評論家・田村重信氏は次のように語る。「小野寺さんは自民党の政策責任者である政調会長経験者。政調会長は“大臣3人分のポスト”と言われ、財務省と二人三脚で各省庁の予算や政策を調整する仕事だから財務官僚とのパイプが太くなる。小野寺さんも財務省に理解が深い」。
実際、小野寺氏は政調会長時代に「年収の壁」引き上げの自公国3党合意を結びながら、いざ法案をまとめる段階で、宮沢洋一氏(前税調会長)とともに減税規模を値切り、事実上骨抜きにした張本人である。自民党の積極財政派議員の一人は、「高市さんは税調会長の人選を間違った。小野寺氏は減税にストップをかける新たなラスボスになる可能性が高い」と指摘している。
小林鷹之氏の政調会長就任と人事の裏側
小野寺氏の後任として、党の政策をまとめる政調会長に就任したのが、「コバホーク」こと小林鷹之氏だ。彼は財務官僚出身で、税調インナーも務めた親財務省の政治家として知られている。この政調会長人事にも、財務省の影響が色濃く見え隠れする。
田村氏によると、「党役員人事で高市さんは積極財政派の有村治子氏を政調会長にして政策を仕切らせ、コバホークは総務会長にするつもりだったが、麻生太郎副総裁の意向で入れ替わったそうだ。自民党の政策決定の主導権を積極財政派に奪われたくない財務省の画策があったと見られている」。政府が予算案や法案などを国会に提出する場合、事前に自民党政調の審査を経て、了承を得なければならないため、政調会長のポストは極めて重要である。
財務省人脈による党中枢の「四役」支配
田村氏は、現在の自民党における税制・財政の政策決定の構図を分析する。「税制・財政の政策決定の順番で言えば、小野寺税調会長の上に、税調インナーの序列3位だった小林政調会長がいる。そして財務大臣経験者で消費税減税に強く反対した鈴木俊一氏が党の方針を決める幹事長です。さらに執行部の後ろ盾は財務大臣を9年近く務めた財務省の守護神的存在の麻生副総裁ですから、税制・財政に関わる党四役のうち有村総務会長を除く3人が財務省人脈の政治家ということになる」。
このように、自民党の政策決定中枢において、党税調会長、政調会長、幹事長、そして副総裁という主要なポストが、財務省と密接な関係を持つ政治家によって占められている現状は、高市首相が目指す積極財政路線にとって大きな壁となるだろう。
税調インナーへの財務省の影響力などについて見解を求められた小林事務所は、「自民党税制調査会について、財務省や特定の支持団体等の意見を反映しているという指摘があることは承知している。しかし実際は、国民生活向上と経済成長を見据えた開かれた政策議論を行っている」とメールで回答した。
結論
高市首相が推進しようとする積極財政路線に対し、財務省は自民党内の主要なポストに影響力のある人物を配置することで、巧みに「包囲網」を築き上げていることが明らかになった。特に党税調会長に就任した小野寺五典氏と、政調会長に就任した小林鷹之氏の人事は、その象徴と言えるだろう。政策決定の要となる党四役の大半を財務省人脈が占める状況は、高市政権の財政政策に大きな影響を及ぼす可能性が高い。今後の政権と財務省の攻防は、日本経済の行方を左右する重要な焦点となるだろう。
参考文献
- 週刊ポスト2025年11月7・14日号
- Yahoo!ニュース: https://news.yahoo.co.jp/articles/d5012e217102965e8c79b66ecf99d1bc26cc402
- NEWSポストセブン: https://www.news-postseven.com/





