日本で急増する「アーバンベア」の脅威:専門医が語る都市部クマ被害の深刻な実態

近年、日本各地でクマの出没情報が相次ぎ、人身被害も増加の一途を辿っています。特に深刻なのが、市街地に出没する「アーバンベア」の存在です。彼らがなぜ都市部に現れるのか、そしてその背景には何があるのでしょうか。本記事では、クマ外傷治療の専門家である中永士師明医師へのインタビューを通して、急増するクマ被害の現状と、医療現場から見たその衝撃的な実態に迫ります。

都市部に出没する「アーバンベア」の衝撃

2024年11月30日、秋田市内のスーパーマーケット「いとく土崎みなと店」にクマが侵入し、数日間にわたり店内に立てこもるという衝撃的なニュースは、多くの人々の記憶に新しいことでしょう。この事件で負傷した40代の店員は、秋田大学医学部附属病院高度救命救急センターへ搬送されました。そこでセンター長を務めるのが、クマ外傷治療のエキスパートである中永士師明教授です。

中永教授は、当時の状況について次のように語ります。「襲われた従業員さんは、顔にざっくりとした切り傷を負っていました。バックヤードで作業をしていたら『何かが入ってきた』と感じ、最初はイヌだと思ったそうです。ところが実際はクマだった。気がついた次の瞬間には、バーッと襲いかかってきたと言います。」クマの侵入経路は、商品搬入用の扉でした。人や商品の出入りが多く鍵がかかっていない場所であり、従業員は一瞬の出来事でクマ特有の獣臭に気づく間もなかったとされています。

日本国内で人里に出没が増加しているツキノワグマ。森林と市街地の境界域でのクマ被害に注意喚起。日本国内で人里に出没が増加しているツキノワグマ。森林と市街地の境界域でのクマ被害に注意喚起。

秋田市土崎は、秋田市内でも比較的中心部に位置し、住宅が密集するエリアです。中永教授は、このような市街地での“アーバンベア”の出没が秋田県内で確実に増加していると指摘します。近年まで市街地での受傷例はほとんどなかったのが現状です。

専門家が語る被害増加の背景と治療現場

中永教授が秋田大学に来て20年以上になりますが、これまで同センターで直接治療に当たったクマによる傷病者は50人ほどに上ります。前任の岩手医科大学でも多くのクマによる受傷者を診てきましたが、秋田での被害は岩手よりもはるかに増加していると感じているとのことです。

クマが一度市街地に出て食物があることを知ると、それを記憶してしまう習性があります。特に親子グマの場合、母グマに連れられて市街地で食料を確保できることを子グマが学習してしまうと、山の中ではなく都市部へ再び出てくる可能性が高まります。子グマはおよそ2歳頃まで母グマと一緒に生活しますが、独立後も市街地での食料事情を覚えていて、人里へ下りてくるというパターンも確認されています。都市化の進展や自然環境の変化が、クマと人との接触機会を増やし、このような「アーバンベア」問題の深刻化を招いているのです。

クマ被害増加への警鐘と今後の課題

都市部に現れるクマの増加は、単なる野生動物の問題に留まらず、社会全体で取り組むべき安全保障上の課題となっています。専門家の知見に基づいたクマ対策、例えば適切なゴミ管理、農作物の保護、そして万が一クマに遭遇した場合の正しい対処法の普及が急務です。また、クマの生態系理解を深め、人間とクマが共存できる環境を模索していく必要があります。

結論

日本社会を揺るがすクマ被害、特に市街地での「アーバンベア」の出現は、私たちの生活圏に潜む新たな脅威です。中永士師明教授のような専門家による冷静な分析と治療の最前線からの報告は、この問題の深刻さを浮き彫りにしています。食料を求めて人里に下りてくるクマの行動パターンを理解し、適切な予防策と対応を学ぶことが、今後の被害を最小限に抑える鍵となるでしょう。私たちは、この変化する環境において、クマとの共存に向けた知恵と努力が求められています。


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