環境に優しいはずの「エコ住宅」がスズメを「絶滅」に追いやる?日本の野鳥減少の背景

チュンチュンと鳴くスズメの声は、かつて日本の日常に欠かせない音風景でした。旭川市旭山動物園の統括園長である坂東元氏も、スズメを「人間の生活圏で暮らす特殊な野鳥」と語り、その存在に安らぎを感じると言います。しかし、この身近な存在である日本のスズメが、今、深刻な減少の一途を辿っています。環境に配慮したはずの現代社会の変貌が、彼らを絶滅の淵に追いやっている可能性が指摘されており、私たちはこの見過ごされがちな事態に目を向ける必要があります。

現代の住宅街にいるスズメ。減少する彼らの生息地と食料源現代の住宅街にいるスズメ。減少する彼らの生息地と食料源

日本で見られるスズメの異変:静かになった街角

環境省生物多様性センターなどの全国調査(2005年~2022年)によると、スズメの年間減少率は、環境省レッドリストの「絶滅の危険が増大している種」に匹敵する値を示しています。また、1980年代から2020年代にかけて、日本のスズメの個体数は3分の1から半数程度まで減少したという報告もあります。坂東元氏は、「スズメと一緒に生きられなくなった環境は、人間も生命の危機に瀕しているということではないか」と警鐘を鳴らし、スズメの減少が私たちの生活環境における重要な変化を示唆していると述べています。

スズメが姿を消す二つの主な理由

スズメの個体数減少には、主に以下の二つの要因が大きく関係しています。

巣作りの場所の消失

昔の日本の家屋では、瓦屋根の隙間や換気口、屋根裏などがスズメにとって理想的な営巣場所でした。しかし、現代の住宅は高気密化が進み、省エネルギー性の高い「エコ住宅」が主流となっています。これにより、スズメが巣を作れるような隙間がほとんどなくなり、安全な繁殖場所が失われてしまいました。

深刻なエサ不足

スズメはヒナが巣立つまでに、約2000~3000回もエサを運びます。このエサのほとんどは小さな昆虫です。かつて豊富にあった空き地が減少し、公園などでは害虫駆除のために殺虫剤が散布されることが増えました。これにより、スズメのヒナを育てるために不可欠な昆虫が大幅に減少し、食料源の確保が極めて困難になっています。

スズメだけではない:ツバメにも迫る危機

スズメと同様に、ツバメもまた日本の身近な野鳥として知られていますが、彼らも同様の危機に直面しています。ツバメは水と泥、唾液を使って家の軒裏などに巣を作ります。しかし、最近の住宅は軒裏がないデザインや、汚れがつきにくいツルツルとした外壁材が増え、ツバメが巣を構築できる場所が減少しています。私たちの快適さを追求した結果、野鳥たちの営巣環境を奪っているという現実が浮き彫りになっています。

「エコ住宅」の本当の意味を問う

現代の「エコ住宅」は、人間の快適性や省エネルギーを追求する一方で、スズメやツバメといった身近な野鳥の生息環境を奪い、彼らを絶滅の危機に追いやっているという矛盾を抱えています。坂東元氏の「環境に優しい“エコ住宅”といわれているけれど、本当にこれがエコなんだろうかと思います」という問いかけは、私たちに「真の環境共生とは何か」を深く考えさせるものです。人間の利便性だけでなく、多様な生命が共存できる持続可能な社会を目指すためには、住宅や都市の設計において、より広範な生態系への配慮が不可欠です。


参考文献: