「愛子天皇待望論」が国民の間で議論される中、その背景には何があるのか。皇室史の専門家である宗教学者・島田裕巳氏は、天皇皇后両陛下の長女である愛子内親王が多くの国民から愛される理由の一つとして、「一人っ子であること」が大きく影響している可能性を指摘します。本稿では、現代社会における一人っ子増加の傾向と皇室における一人っ子の歴史的稀少性という二つの視点から、愛子さまへの国民感情の根源を探ります。
園遊会で招待客と談笑される愛子内親王。穏やかな表情が国民の共感を呼ぶ。
現代社会における「一人っ子」と愛子さまの存在
近年、日本社会では一般家庭における一人っ子の割合が増加傾向にあります。厚生労働省が設置した国立社会保障・人口問題研究所の2021年調査では、結婚後15〜19年が経過した夫婦の子どもの19.7％が一人っ子と報告されており、2002年の8.0％から約20年で倍増しました。この背景には、晩婚化や晩産化の進行、さらには経済的な理由から二人目以降の子どもを望まない夫婦が増加していることが挙げられます。
愛子内親王は、このような現代社会の象徴として、皇族としては珍しい「一人っ子」として誕生されました。皇室の歴史を紐解くと、かつては側室制度が広く存在し、天皇が複数の母を異にする兄弟姉妹を持つことが一般的でした。また、現在の皇室典範では認められていないものの、過去には養子縁組も行われていたため、天皇の子どもが一人っ子である例は極めて稀でした。複数の子女が存在することが前提であった時代において、愛子さまの「一人っ子」というご生誕は、まさに現代的な現象と言えるでしょう。
皇室史上唯一の「一人っ子皇子」一条天皇の事例
皇室の歴史において、一人っ子として生まれた唯一の皇子が第66代一条天皇です。彼は平安時代の986年から1011年まで在位し、藤原道長が権勢を誇り、『枕草子』や『源氏物語』が執筆された華やかな宮廷文化の時代を代表する天皇でした。
父である第64代円融天皇には複数の中宮や女御、更衣といった妻がいましたが、女御の藤原詮子との間に生まれた懐仁親王（後の一条天皇）ただ一人しか子どもがいませんでした。宗教学者・島田裕巳氏は、当時の後宮の開放的な性格から、その血統を巡る複雑な背景についても指摘しています。
これまでの調査によれば、一人っ子の皇子は懐仁親王が唯一であり、一人っ子の内親王の例はこれまで存在しません。この点で、愛子内親王は皇族として極めて特別なご生誕であると言えるでしょう。
愛子内親王は、現代の一人っ子増加という社会潮流の象徴であり、皇室史上でも稀有なご存在です。この独特な背景が、「愛子天皇待望論」という国民感情の根源にあると専門家は分析します。愛子さまのご存在は、皇室の将来と国民との関係性に新たな視座をもたらしていると言えるでしょう。
