職場に潜む「サイコパス」という言葉を聞くと、多くの人は犯罪者や冷酷な経営者を想像するかもしれません。しかし、驚くべきことに、彼らは20人に1人という割合で身近に存在すると言われています。彼らは知らず知らずのうちにあなたのキャリアを破壊し、職場環境を生き地獄に変える可能性があります。今回、2025年8月に日本語版が刊行された『サイコパスから見た世界:「共感能力が欠落した人」がこうして職場を地獄にする』について、ジャーナリストの佐々木俊尚氏に話を伺い、サイコパスがどのように世界を捉え、他者を認識しているのか、その実態に迫ります。
身近に存在するサイコパスの脅威
佐々木氏が最も驚いたのは、サイコパスが20人に1人という高頻度で存在するという事実でした。かつては一般の人には無縁と思われていた存在が、実は私たちのすぐ近くにいるという現実を突きつけられます。佐々木氏自身の新聞記者時代の経験を振り返ると、確かに心当たりのある人物がいたと語ります。彼らは必ずしも仕事ができるわけではないものの、人間関係のコントロールに長け、他人を自分の支配下に置きたがります。また、部下や同僚の手柄を平気で自分のものにしようとする強い欲望を持つタイプも存在したとのことです。
過剰な成果主義は、自分の成果だけを得られれば良いという空気を醸成し、サイコパスが暗躍する土壌を作ります
このような人々は、往々にして上司からの評価が高い傾向にあります。彼らは上の者に巧みに取り入り、その一方で部下や同僚を踏みつけることには何のためらいも感じません。佐々木氏は、本書を読んで過去の嫌な記憶が蘇ったと述べており、多くの人が同様の経験をしていることでしょう。
成果主義が招く「テイカー」の台頭と変化する社会
昭和から平成初期にかけての日本社会は、強いヒエラルキーが存在し、LINEやメッセンジャーのような日常的なコミュニケーション手段がありませんでした。そのため、上層部の覚えさえめでたければ、自分の利益だけを追求する「テイカー」が成功しやすい土壌があったと言えます。
しかし、佐々木氏によれば、現代社会は当時と比べて風通しが良くなったと感じています。アダム・グラント著の『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』に書かれているように、自分のことしか考えない「テイカー」と、他者に善意を与える「ギバー」の存在が注目されています。インターネットが普及した現代では、テイカーの悪行が目立ちやすく、可視化されやすい時代になりました。SNSなどを通じて、「あの人、ちょっと問題があるよね」といった会話がすぐに共有されるためです。
かつてはテイカーが得をする社会でしたが、ネット時代においてはテイカーは損をし、ギバーの善行が共有されやすくなる傾向にあります。情報の透明性が高まることで、個人の行動が評価されやすくなり、結果として「与える人」が成功し、「奪う人」は淘汰される、より健全な社会へと変化しつつあるのかもしれません。
まとめ
職場に潜むサイコパスの存在は、現代社会においても無視できない脅威です。彼らの巧妙な手口は、組織の健全性を蝕み、従業員の精神的な負担を増大させます。しかし、佐々木俊尚氏の指摘するように、インターネットとSNSの普及によって、テイカーのような利己的な行動が露呈しやすくなり、その結果、ギバーが評価される時代へと移行しつつあります。私たちは、サイコパスの特徴を理解し、警戒するとともに、互いに協力し、助け合う「ギバー」の精神を尊重することで、より良い職場環境を築いていくことができるでしょう。





