秋田県では、相次ぐクマの目撃情報と人身被害の深刻化により、地域の経済、特に夜の街に深刻な影響が及んでいます。住民が外出を控えるようになった結果、多くの飲食店が客足の激減に直面し、経営難に陥っています。これは単なる野生動物の問題に留まらず、地域社会の活力を奪い、地元経済を疲弊させる社会問題へと発展しています。
「売上が3分の1に」北秋田市のスナック経営者が語る窮状
クマの出没は、秋田県内の多くの事業者にとって死活問題となっています。特に被害が甚大な北秋田市の繁華街では、夜間の外出を控える住民が増え、飲食店が深刻な打撃を受けています。あるスナック経営者は、昨年の同時期と比較して「売り上げが3分の1になった」と明かし、常連客が来店しなくなった現状を語っています。市外からのビジネス客はまだ来店するものの、地元住民は「飲みに歩いてクマにやられたと噂されたくない」との理由から、夜の外出を避ける傾向にあるといいます。
10月中旬の平日午後10時頃、体長1メートルのクマが北秋田市の市街地で目撃されました。この地域はスナックなどが建ち並ぶ繁華街に近く、飲食店経営者は当時の状況を「スナックから外へ出た酔っ払いの男性がクマと遭遇し、大声を出したことで被害はなかった」と振り返ります。しかし、この一件以来、恐怖から店を開けられずにいる飲食店も少なくないといいます。北秋田市ではクマの目撃情報が多発しており、防衛省に自衛隊の派遣調整を要請する事態にまで発展しています。大館能代空港を擁する空の玄関口でありながら、夜になると街は静まり返り、多くの飲食店が営業を断念せざるを得ない状況です。
秋田県が提供するクマの目撃情報・人身被害情報データベース「クマダス」によると、北秋田市では2025年4月1日から11月11日までの間に、757件ものクマ目撃情報が寄せられています。前述のスナック経営者は、「9月から10月は稲刈りで農家さんが忙しく閑散期だったが、11月からは繁忙期と期待していたのに……」と肩を落としています。このような状況が続く中で、地域経済の回復は遠のくばかりです。
人里に現れたクマの姿、夜の街が静まり返る原因となっている
コロナ禍との比較と将来への懸念
クマ被害への対策として警察によるパトロールが行われていますが、その活動が新たな問題を生み出しています。警察官が「不要不急の外出をお控えください」と呼びかけながら巡回することで、住民はさらに外出を控えるようになり、結果的に客足が遠のく悪循環に陥っています。この状況は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック時と酷似していますが、大きく異なる点があります。それは、飲食店への補助金など、経営を支えるための支援策が存在しないことです。
スナック経営者は、「コロナ禍と一緒で誰も外に出歩かなくなっちゃうんですよね。ただ、あの時と違って、補助金とかがあるわけでもないし。今年のような状況が今後も数年続くようであれば、何か対策がないと困った未来が見えます」と、政府や自治体からの支援がない現状に強い懸念を示しています。同市内では他の店舗にも影響が及んでおり、30年以上タクシー業務をこなすベテラン運転手も、「この1カ月くらい、夜の食事をするための県外からのお客さんを乗せたり、まったくしていない。地元の人たちと昼間話していると、夜は絶対に飲み歩かないようにしていると聞く」と証言しています。一方で、飲食店の経営者からは「売り上げが去年の同月と比べ半分になったところもある」との悲痛な声が上がっています。
深刻化するクマ被害は、秋田県の地域経済、特に夜の街に甚大な影響を与えています。住民の安全確保は最優先事項である一方で、それが地域社会の活力を奪い、地元事業者の経営を圧迫している現状は無視できません。警察のパトロールに加え、住民の安全を確保しつつ、地域経済を維持・活性化させるための新たな対策が早急に求められています。単なる注意喚起に留まらず、具体的な支援策や地域全体でのクマ対策の強化が、秋田の夜の街に再び賑わいを取り戻す鍵となるでしょう。





