日本美術院の「盗作」認定は違法判決：梅原幸雄氏、勝訴裏の「村八分」

「最高裁まで行って勝ったとしても、私の村八分は変わらないと思います」。そう語るのは、日本画家の梅原幸雄氏（75）です。2年半前、梅原氏は「春の院展」に出品した作品が「他人の作品に類似している」という一方的な理由で、1年間の出品停止処分を受け、“盗作作家”という不名誉なレッテルを貼られました。梅原氏は、謂れのない理由で名誉を毀損されたとして、院展を主催する日本美術院を提訴。一審に続き控訴審でも勝訴し、汚名をそそぎましたが、その代償は計り知れませんでした。40年以上のキャリアを持つベテラン日本画家が、この苦難の中で気づいたこととは一体何だったのでしょうか。

証拠なき「盗作」認定と裁判の経緯

問題の発端は、2年9カ月前の2023年3月に遡ります。梅原氏は春の院展に「歌舞の菩薩」という作品を出品しましたが、日本美術院の理事会から「22年前に別の画家が出品した作品と酷似している」との指摘を受けました。嫌疑がかけられた絵と自身の作品を見比べると、確かに構図は似ていましたが、梅原氏はこれを「偶然」とし、盗作の覚えはないと主張しました。倫理委員会で反論を試みたものの、理事会は具体的な証拠がないまま、「結果的に他人の作品に類似していると判断した」という理由だけで、梅原氏に対して理事解任相当と、1年間の日本美術院主催展覧会への出品停止処分を決定したのです。

この不当な処分に対し、梅原氏は2023年6月、日本美術院に損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。今年4月23日、東京地裁は処分を「違法かつ無効」と判断し、不法行為を構成するとして日本美術院に220万円の賠償を命じる判決を下しました。双方が控訴する形となり、控訴審で再び争われることになりましたが、2025年12月10日、東京高裁は一審判決を支持し、梅原氏の勝訴が確定しました。

自宅でインタビューを受ける日本画家・梅原幸雄氏

名誉回復の陰に続く「村社会」の影

控訴審判決が出る一週間前の12月上旬に行われたインタビューで、梅原氏は一審判決後も、日本美術院内での自分に対する評価は全く変わらなかったと語りました。「この騒動が起きる前ならば、この時期は後輩たちからお歳暮がたくさん届いたものです。それが去年も今年もゼロ。村八分が続いています。このムラ社会では司法の結果など関係ない。理事会という権威に楯突いたことが全てなのです。控訴審や最高裁で勝ったとしても同じ。もう諦めています」と、その心情を吐露しています。

東京藝術大学在学中、日本画の大家である平山郁夫氏（2009年没）に師事したことから、梅原氏の輝かしいキャリアは始まりました。1993年には43歳で、日本美術院に所属する会員の中で最高ランクの称号である「同人」に選出。2005年から2018年までは東京藝術大学教授を務め、大観賞、文部科学大臣賞、内閣総理大臣賞など、数々の栄えある賞を受賞してきました。「平山先生にかわいがっていただき、修士を卒業する時も一番の成績で作品を藝大に買い上げてもらいました。大学では助手、助教、教授とトントン拍子に出世。気づいたら日本美術院の理事にまで上り詰めましたが、今や裏切り者扱いです」と、これまでの功績と現在の孤立無援な状況とのギャップを語りました。

今回の裁判は、梅原氏の作品の盗作疑惑を晴らし、名誉を回復する重要な一歩となりました。しかし、日本の芸術界に深く根ざす「村社会」のような閉鎖的な体質が、司法の判断をもってしても変わらない現実が浮き彫りになりました。この一件は、個人が権威に立ち向かうことの難しさ、そしてその先に待ち受ける社会的な代償について、深く考えさせるものとなっています。