山上徹也被告、安倍元首相銃撃の動機と緊迫の背景を詳細に語る:奈良地裁公判詳報

安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也被告の奈良地裁における公判が、12月2日から4日にかけて3日連続で開かれ、山上被告本人への質問が行われた。この公判では、宗教団体に対する深い怒りがなぜ安倍元首相に向けられたのか、そして経済的な逼迫が犯行を早めた経緯が、山上被告自身の口から詳細に語られた。この事件は、日本社会に大きな衝撃を与え、その動機と背景は多くの関心を集めている。

宗教団体への恨みと家庭の崩壊

山上被告は、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信仰に深く傾倒した結果、兄が自殺するなど家庭が崩壊したことで、教団に対し強い恨みを抱くようになったと供述した。当初は教団トップである韓鶴子氏の襲撃も計画したが、これは果たせなかった。山上被告は、教団の中心が韓国にあることから、「日本の幹部を襲撃しても解決にはならない」と考えていたという。彼の個人的な悲劇と、それに対する宗教団体への積年の恨みが、事件の根底にあることが明らかになった。

なぜ安倍元首相を標的としたのか

山上被告が教団ではなく、安倍元首相を標的とした理由についても具体的に語られた。「安倍元首相は、統一教会と政治家のかかわりの中心にいると思っていました。他の政治家では意味が弱いと思いました」と述べ、安倍氏が教団と政治の繋がりにおける象徴的な存在であると認識していたことを明かした。この発言は、彼の犯行が個人的な恨みだけでなく、特定の政治的・社会的構造に対する認識に基づいていた可能性を示唆している。

経済的困窮と犯行の決断

襲撃のための銃や銃弾の製造に約200万円を費やし、多額の借金を抱えたことで、山上被告は経済的に追い詰められていた。この状況が犯行を急がせた一因であるという。「経済的に追い詰められた。やめてしまうと教会に敗北するようで、絶対に避けたかった」と述べ、追い込まれた状況下での強い決意があったことをうかがわせた。彼の言葉からは、経済的な苦境と教団への報復という二重のプレッシャーが感じられる。

銃撃直後の山上徹也被告と取り押さえようとするSP銃撃直後の山上徹也被告と取り押さえようとするSP

運命的な偶然の連鎖

事件前日の2022年7月7日、山上被告は参院選の応援演説に訪れる安倍元首相を岡山で襲撃しようと試みたが、厳重な警戒により断念した。その帰りの列車内で、翌8日に安倍氏が山上被告の地元である奈良市で応援演説を行うことを知った。「まさか自分が銃撃に失敗した翌日、もう一度来るとは思っていなかった。偶然とは思えない気がした」と、この巡り合わせに強い「偶然」を感じたという。

さらに、襲撃当日の8日にも「偶然」があったと語る。安倍氏が演説を始めた際、後方から狙うと銃弾が跳ね上がり、安倍氏以外に被害が及ばないと考えていたが、真後ろには警備員がいた。演説が終わってしまうのではと焦る中、偶然にも警備員が別の方向へ移動し、自転車に乗った人物や台車を押す人物が近くを通り、警備の目がそちらへそれた。「今かと思って車道に出ました」と、その瞬間に犯行に及んだ経緯を詳細に説明した。

結び

山上徹也被告の奈良地裁公判での証言は、彼の犯行が、長年にわたる宗教団体への恨み、家庭崩壊の悲劇、そして経済的な困窮という複数の要因が絡み合い、さらに「偶然」が重なった結果であったことを示している。この事件が残した深い問いと、その背景にある社会的な課題について、今後も詳細な検証と議論が求められるだろう。