日本社会で深刻化するクマ被害と、その対策における自衛隊や警察の役割が注目されています。自衛隊の後方支援は終了したものの、現場では水際対策が続けられており、その緊張は依然として収まりません。しかし、現役の猟友会員でもある報道カメラマンの不肖・宮嶋氏の視点から見ると、彼らが用いる銃器やその運用には多くの課題が存在します。都市型テロリストへの対処や国防を主任務とする組織が、クマ駆除にどれほどの成果を期待できるのか、そしてその問題点を深掘りします。
拳銃でのクマ駆除は「逆に危険」な理由
ここでもう少し冷静に、ハンターの立場から猟具に関して言わせていただきます。我々民間ハンターと警察、自衛隊のクマ対策部隊とでは、公務員と民間人という身分上の違いだけでなく、道具(銃)や使用弾薬、さらには経験値も全く異なります。テレビニュースで警察官がクマ対策に出動する現場を見て、「なぜ拳銃で対処しないのか」と疑問に思う方もいるでしょう。しかし、警察官職務執行法では拳銃の使用に厳しい条件が課せられており、緊急避難や正当防衛など「相当な理由」がなければ認められません。野生動物への発砲は、この「相当な理由」に該当しないのです。
そのうえ、拳銃ではそもそもクマに歯が立ちません。特に日本の制服警察官が所持する威力に劣る38口径弾では、クマの毛皮の下にある厚い脂肪層に弾かれてしまう可能性が高いのです。それどころか、クマを半矢(手負い)にして逆上させ、かえって危険な状況を招く恐れがあります。弾頭の初速自体も、拳銃弾が秒速300m程度であるのに対し、ライフル弾は音速の3倍にあたる秒速1000mにも達します。これほどまでに拳銃弾とライフル弾では威力が違うのです。
自衛隊員がライフル銃を構える様子。クマ対策における銃弾の課題が指摘されている。
訓練と実猟の決定的な違い
昨年末、秋田県のスーパー内に55時間にわたって立てこもったクマに対し、県警が人質立てこもり事件専門の特殊部隊であるSIT(捜査1課特殊班)を派遣したことがニュース映像でも報じられました。しかし、この際もSITは拳銃を使用することなく、箱わなの設置などの後方支援に従事していました。さらに、今回の警察ライフル部隊の出動においても、訓練で繰り返しているような紙の静止標的に射撃するのではなく、動き回るクマを相手にする必要があります。
民間ハンターは、鳥やキツネ、ウサギなどの素早い小動物には散弾銃を使用します。もちろんクマ相手でも、散弾のカテゴリーに入るスラグ弾(一発弾)やOOB(ダブルオーバック)弾という、パチンコ玉ほどの鉛玉が6粒か9粒入った強力な弾を使用することがあります。散弾銃は公式的には特殊部隊以外の日本の警察や自衛隊には配備されていないはずですが、ライフル銃は当然配備されています。しかし、警察・自衛隊双方に配備されているライフル銃は、対人用、つまり軍用であることがその用途を限定しています。
クマ被害の増加は社会全体で取り組むべき喫緊の課題ですが、自衛隊や警察が現在の装備や法的枠組みで効果的なクマ駆除を行うことは極めて困難です。民間ハンターとの経験値、装備、法規の違いを認識し、より実践的で安全なクマ対策を再検討する必要があるでしょう。





