秋田県クマ被害支援の裏側:自衛隊の「肉体労働アルバイト」と本音

秋田県でクマ被害が深刻化する中、陸上自衛隊による異例の支援活動が11月末をもって終了しました。秋田駐屯地に拠点を置く陸自第21普通科連隊のべ924人が、11月5日から鹿角市や大館市など12市町村で活動に従事。箱わなの運搬や駆除されたクマ9頭の搬送、さらには埋設のための穴掘りといった多岐にわたる作業を担いました。鈴木健太知事は、この支援に対し「不足していたマンパワーを的確に補っていただき、誠に心強い支えとなりました」と感謝の意を表明しています。

しかし、この「心強い支え」の裏側では、自衛隊内部から複雑な感情が漏れ聞こえています。ある陸自幹部A氏は「結局、肉体労働アルバイトに使われたということですよ」と率直な不満を口にしました。自衛隊の本来持つ「強み」が活かされた派遣ではなく、単なる力仕事の人手として扱われたことへの疑問が背景にあります。

自衛隊、秋田でのクマ被害支援活動の詳細と本音

陸上自衛隊第21普通科連隊は、秋田県内12市町村において、計141基の箱わなを設置場所まで運び、駆除されたクマ9頭を回収・運搬する作業を行いました。また、一度ではありますが、クマを埋設するための穴掘り作業も実施。これらはクマの出没が相次ぎ、住民の生活に深刻な影響が出ていた秋田県にとって、まさに喫緊の課題への対応でした。鈴木知事の感謝の言葉は、自治体側の切実なマンパワー不足を物語っています。

森の中を歩くクマ森の中を歩くクマ

しかし、前述の陸自幹部A氏からは「自衛隊の強みを生かした派遣じゃない。力仕事ができるアルバイトがいれば十分です」との意見が聞かれました。一般の人々が「自衛隊の強み」として想像するのは、人手不足の猟師に代わるクマ駆除活動であり、陸自の小銃が警察官の拳銃よりも頼りになると考える向きもあります。

クマ対策における自衛隊のジレンマ:武器と専門性の課題

この点について、A氏は「自衛隊の5.56ミリ小銃は相手を傷つけるのが本来の目的です。敵の兵士を負傷兵の手当に向かわせることで、敵戦力を減らせるからです。だから皮下脂肪や頭蓋骨が厚いクマを殺せるのか自信がありません」と、自衛隊の装備の性質とクマ駆除のミスマッチを指摘します。

さらに、普通科連隊が保有する狙撃銃や機関銃のようなより強力な武器も、クマが人の生活圏に侵入した緊急時に使用するにはリスクが伴い、使いづらいのが実情です。A氏は「そもそも、我々はクマの行動特性を教えてもらっていません。どんな動きをするのか予想できない相手に対し、猟師のような仕事を期待されるのはとうてい無理です」と述べ、専門知識の欠如が課題であることを強調しました。自衛隊は本来、国防を担う組織であり、野生動物の生態や行動を熟知した猟師とは異なる専門性を持っているのです。

なぜ自衛隊は「困難な任務」を引き受けるのか:信頼と無償の貢献

では、なぜこのような状況下でも自衛隊に声がかかるのでしょうか。鈴木知事自身も元陸上自衛官であるため、A氏が抱くようなジレンマは十分に理解していたはずです。A氏によれば、そこには主に二つの理由があるといいます。一つは「自衛隊員は国のためだからと喜んで働きます」という使命感。もう一つは「人件費がタダだからです」。予算不足に苦しむ自治体にとって、無償で迅速かつ組織的なマンパワーを提供してくれる自衛隊は、極めて貴重な存在となっています。

自衛隊員は、一般の人々が尻込みするような危険な場所や困難な状況にも、臆することなく投入されます。2018年2月の北陸豪雪被害に対する災害派遣では、国道8号で31.8キロメートルにわたる除雪作業を行い、1190台もの車両を救出しました。極寒の中、凍傷や低体温症、脱水症状に警戒しながらの過酷な作業は、彼らの献身的な姿勢を象徴しています。

自衛隊がこのような難所での任務を「喜んで引き受ける」背景には、過去の歴史が深く関係しています。陸自元幹部のB氏は、「60年安保と70年安保で地に落ちた自衛隊のイメージを何とか挽回したいという思いがあったから」と語ります。阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)などでの懸命な活動を通じて、自衛隊は国民からの信頼を着実に回復し、今や「日本の政府機関で最も信頼されている組織」と評されるまでになりました。

自衛隊の秋田県でのクマ被害支援活動は、国防という本来任務と、国民の安全を守るための災害派遣・支援活動との間で揺れ動く自衛隊の現状を浮き彫りにしています。国民の期待に応えつつも、その専門性をいかに効率的かつ適切に社会貢献に結びつけていくかは、今後の大きな課題となるでしょう。

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