JR中央線沿線には、どこか文化的な雰囲気が漂う。東急田園都市線は、洗練されたファミリーが暮らす街。城東エリアは人情味にあふれ、湾岸のタワーマンション群は新しい富裕層の象徴――。私たちは、知らず知らずのうちに、沿線や街に対する漠然としたイメージを頭の中に描いています。ですが、そのイメージや空気感の正体とは、いったい何なのでしょうか。そして、私たちが当たり前のように感じている常識は、果たして本当の姿を映しているのでしょうか。
住む場所や沿線によって人々の暮らしや価値観は本当に違うのか? なぜ、あの街では「お受験熱」が高く、この街には「IT人材」が集まるのか? その背景にある都市の構造、歴史、そして人々の営みを、膨大なデータとともに解き明かしていく、知的な冒険の旅へ、『データでわかる東京格差』の著者、にゃんこそばさんに案内してもらいましょう。
SNSやネットメディアで定期的に白熱する「賃貸vs.持ち家」論争。「若いうちに家を買うべきだ」「いや、金持ちになりたいなら家を買うな」――不動産や投資に詳しいインフルエンサーが繰り広げる激論を目にした読者も多いでしょう。
この永遠のテーマに、万人に当てはまる絶対的な答えはありません。しかし、客観的なデータをもとに、ライフステージや地域による違いを理解することで、この論争を深く、冷静に捉えられるはずです。本節ではまず、首都圏の住民が賃貸と持ち家をどのように選択しているのか、その姿に迫っていきましょう。
■ライフステージで見る「持ち家」への道のり
多くの人にとって、住宅の購入はライフステージの変化と密接に結びついています。特に結婚と出産といった世帯構成の変化は持ち家取得の大きなきっかけとなります。
総務省統計局『令和5年(2023年)住宅・土地統計調査』から、首都圏1都3県における年齢階級別・家族構成別の持ち家率を見てみましょう(図1)。20代では家族構成によらず賃貸暮らしが多数ですが、30代では既婚者、特に子どものいる世帯で持ち家率が上昇します。そして、40代の子育てファミリーでは、70%以上が持ち家を選択していることがわかります。
つまり、賃貸か持ち家かという選択は、特に結婚、出産といったライフイベントを迎える30代から40代にとって、最も切実な問題となるのです。そこでここでは、賃貸と持ち家の選択を迫られる35〜44歳の子育てファミリーに焦点を当て、彼らがどこに買って住み、どこに借りて住んでいるのか、その地域差を深掘りしていきます。






