2023年10月19日、秋田県北秋田市で前代未聞のクマによる連続襲撃事件が発生しました。わずか1日のうちに、市民6人が相次いでクマの標的となり、地域社会に大きな衝撃と恐怖を与えています。被害者の一人である66歳の男性は、「(攻撃を)手で防いでいたんですけど、もう顔と頭に執着するんですね、クマが」と、当時の生々しい恐怖体験を語っています。本記事では、宝島社の新刊『アーバン熊の脅威』からの内容を交え、この異常事態の全容と背景に迫ります。
早朝から続く連続襲撃
この日の最初の被害は、午前6時40分頃に発生しました。83歳と81歳の高齢女性2人がクマに襲われ、うち1人は右肩を骨折し、頭部を咬まれたほか、右目付近を引っ掻かれるなどの重傷を負いました。この事件は、住民がまだ活動を始める前の時間帯に起こり、地域の安全に対する警鐘を鳴らす形となりました。
クマのイメージ写真
鷹ノ巣駅周辺での被害拡大
最初の襲撃後、クマは約700メートル離れたJR奥羽線・鷹ノ巣駅前の交差点付近へと移動しました。その後も被害は続き、バス停で待っていた16歳の女子高校生が左腕を咬まれ、さらに付近を散歩中だった82歳の女性も背中や肩を引っ掻かれるなどの被害に遭いました。市街地に近い場所での連続的な出現は、住民の生活圏へのクマの侵入が深刻化していることを示しています。
男性店主が語る恐怖の遭遇
午前11時20分頃には、菓子店を営む66歳の男性がガレージのシャッターを開けた際、わずか2メートルの距離でクマと遭遇しました。男性は逃げようとしましたが、クマは猛スピードで追いかけ、背後から男性を押し倒しました。テレビのインタビューで男性は、「すごい勢いで『コォー』ってすごい声を出して(頭を)かじってくる。死ぬかもしれないなと……」と、当時の極限状態での恐怖を振り返っています。
あと数ミリで失明の危機
一瞬の隙を見て男性は約40メートル離れた建物へ逃げ込み、間一髪で命拾いをしました。しかし、頭や顔に大怪我を負い、ドクターヘリで病院に緊急搬送されました。男性の証言によれば、建物に逃げ込んだ際に鏡で確認したところ、「頭蓋骨が開いていた」とのこと。右の耳たぶは咬みちぎられ、顔面への攻撃も「あと5ミリずれていたら失明のおそれもあった」という深刻なものでした。
相次ぐ被害と食料不足の可能性
同日の夕方には、14歳の女子中学生がクマに襲われる事件が発生。自力で帰宅した彼女の姉が「妹がクマに咬まれて出血している」と通報し、病院へ搬送されました。現場に残されたクマの糞からはソバの実が見つかっており、山のブナの実などが不作だったため、クマが食料を求めて人里に下りてきた可能性が指摘されています。市街地で1日に6人もの人間が襲われるのは極めて異常な事態であり、幸い死者は出なかったものの、クマの性質や状態によっては大惨事になりかねない危険性をはらんだ事件でした。
この一連の事件は、人里と野生動物の生息域が重なり合う地域における共存の難しさ、そしてクマの行動変容に対する理解と対策の喫緊の必要性を浮き彫りにしています。
参考文献
- 宝島社 新刊『アーバン熊の脅威』
- 文春オンライン (Webオリジナル外部転載)





