京都南座では12月1日から、東西の人気歌舞伎役者が集う冬の風物詩「吉例顔見世興行」が開催されています。今年襲名を果たした八代目尾上菊五郎による舞踊『鷺娘』などが注目を集める中、多くの観客の関心は片岡愛之助さんにも向けられています。彼は昨年、「吉例顔見世興行」への出演を予定していましたが、2024年11月末の稽古中に舞台装置が顔に直撃するという重傷を負い、上顎と鼻骨を骨折し、降板を余儀なくされました。役者としての命とも言える顔に深い傷を負った愛之助さんですが、その後の回復と現在の状況、そして彼が背負う大きな期待について詳報します。
顔に残る“後遺症”と役者の宿命
昨年11月末の舞台稽古中に顔に直撃という大怪我を負った愛之助さんは、事故から約3か月後の今年3月、東京・歌舞伎座での『仮名手本忠臣蔵』で舞台復帰を果たしました。当時、報道陣から怪我の予後について問われると、「大丈夫でございます。安心して見に来てください!」と力強く宣言し、その後も新作歌舞伎『流白浪燦星』の主演を務めるなど、定期的に舞台に立ち続けています。
歌舞伎役者 片岡愛之助
しかし、表面上は完全復活を遂げたように見えても、彼が負った傷は予想以上に深かったようです。歌舞伎関係者によると、「舞台の上では目立たないものの、事故の影響で唇の右上に麻痺が残り、後遺症に悩まされている」とのこと。親しい人々には「以前のような自然な笑顔がつくれなくなった」と打ち明け、今もそのことを気に病んでいるといいます。笑顔は役者にとって感情表現の重要な要素であり、この後遺症は愛之助さんにとって悩ましい問題となっています。
「仁左衛門」襲名への期待と重責
顔に後遺症を抱えながらも、愛之助さんが舞台に立ち続けなければならない大きな事情があります。それは、彼が「松嶋屋」の大名跡である「仁左衛門」を襲名する最有力候補だからです。一般家庭に生まれた愛之助さんですが、9歳で松嶋屋の弟子となり修行を開始すると、すぐに役者としての才能を開花させました。19歳の時には、十五代目片岡仁左衛門の兄である片岡秀太郎さんの養子に迎えられ、戸籍上は仁左衛門さんと叔父と甥の関係となりました。
現在の仁左衛門さんには長男の片岡孝太郎さんがいますが、彼は女形を専門としています。仁左衛門の継承者は代々立役、つまり男性役を得意とする役者が襲名するのが習わしです。直系ではないものの、立役として傑出した存在である愛之助さんが、この由緒ある名跡の有力な継承者と目されているのです。
評価される“色気ある繊細な演技”
愛之助さんは、かつてTBS系で放送されたドラマ『半沢直樹』で独特な言葉遣いのキャラクターを怪演するなど、現代劇においても硬軟自在の演技で広く知られています。しかし、歌舞伎役者としての彼の評価は、折り紙つきです。上方歌舞伎ならではの「色気のある繊細な演技」は高く評価されており、多くの観客を魅了してきました。
十五代目片岡仁左衛門さんも、愛之助さんを後継者として認め、大きな信頼を寄せていることがうかがえます。愛之助さんの復帰舞台となった今年3月の『仮名手本忠臣蔵』では、仁左衛門さんの十八番とされる主役を、愛之助さんと交互に務めるという画期的な公演が組まれました。これはまさに、松嶋屋の世代交代を示唆する出来事であり、愛之助さんへの期待の大きさを物語っています。
顔に後遺症という困難を抱える片岡愛之助さんですが、松嶋屋の伝統と、十五代目片岡仁左衛門から託された深い信頼があれば、彼はきっとこの試練を乗り越え、偉大な名跡を継承する道を進んでいくことでしょう。





