「もうすぐ自分は死ぬに違いない」。がんの再発を告げられたショックでうつ状態に陥り、家から出られなくなった50代の女性Aさん。彼女を救ったのは、精神的なつらさを和らげる「緩和ケア」でした。本記事では、1000人以上の患者を在宅で看取ってきた中村明澄医師の経験に基づき、がん患者の精神的苦痛に対する緩和ケアの重要性と、その具体的な働きについて深く掘り下げます。がんの再発という困難な状況下で、患者がどのように前向きな気持ちを取り戻していったのか、その詳細をお伝えします。
がん再発の衝撃と精神的苦痛
Aさんは50代の女性で、がんの再発を宣告されました。告知当初は頑張って外来での抗がん剤治療を受けていましたが、約3カ月が経過した頃から、食事も喉を通らず、不眠が続くようになりました。日に日に「もうすぐ自分は死ぬかもしれない」という不安が膨らみ、最終的には自宅から出ることすらできなくなってしまったのです。彼女の隣に住む姉は、Aさんががんになって以来、常に彼女を気にかけていました。その日も外来の受診日であるにもかかわらず「行けない」というAさんを心配し、どうにか病院へ連れて行ったのでした。
主治医は、Aさんの様子から「抗がん剤治療を受けられる精神状態ではない」と判断しました。Aさんのように極端に不安感が強い状態や抑うつ症状があるまま治療を続けると、精神状態がさらに悪化し、通院が困難になるなど、治療そのものにも悪影響を及ぼしかねません。そのため、まずは精神的なケアが不可欠であると考え、そのことをAさんとその姉に伝えました。
がん再発で心を病んだ女性を救った緩和ケアのイメージ
主治医の判断と緩和ケアへの橋渡し
当初、Aさんは「精神科にはかかりたくない」と頑なに拒んでいました。しかし、主治医が「今抱えているつらさを和らげてくれる先生がいるから」と紹介したのが、在宅医として数多くの患者を支えてきた中村明澄医師でした。中村医師との出会いが、Aさんの精神的な苦痛を和らげる最初のきっかけとなったのです。主治医の的確な判断と、患者の心の状態を重視したアプローチが、Aさんを適切なケアへと導きました。
「なぜ私だけが」Aさんの心の叫び
中村医師がAさんと最初に対面した時、彼女は「治ったはずなのに、なぜ再発したのか」「なぜ私がこんな目に遭わないといけないのか」「もうすぐ自分は死ぬに違いない」といった、大きな不安と憤りの感情の渦に飲み込まれそうな状態でした。一度は「もう大丈夫だろう」と思っていたがんの再発を宣告されたショックは、計り知れないものがあったのでしょう。
診察中も、Aさんは口を開けば泣いてしまうような状態で、日常生活に著しい支障をきたしていることが見て取れました。何カ月もの間、食事が十分に摂れず、眠れないという状態は、まさにうつ病の典型的な症状でした。このような精神的苦痛は、がん治療の継続にも大きな障壁となります。中村医師は、Aさんの心の叫びに耳を傾け、精神的なサポートの必要性を強く感じたのでした。
訪問診療に向かう中村明澄医師
緩和ケアがもたらす心の平穏
Aさんのように、がんの再発は患者に深刻な精神的苦痛をもたらすことがあります。身体的な痛みだけでなく、不安、絶望感、怒りといった感情が治療意欲を低下させ、生活の質を著しく損ねる場合も少なくありません。緩和ケアは、このような患者の身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛を和らげ、生活の質を向上させることを目的としています。中村医師による緩和ケアがAさんの心の状態に寄り添い、彼女が抱える不安や憤りを軽減することで、徐々に前向きな気持ちを取り戻すきっかけとなりました。精神的なサポートは、がん治療全体において非常に重要な役割を果たすのです。
参考文献
- 中村明澄医師による連載記事 (Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/5f4258adc36c7bd90e9b311681cbdf3030c33136)





