高市政権の「高転び」リスク:高支持率の陰に潜む台湾有事発言の波紋

日本の政界、特に永田町には、古くから「高転び」という言葉が存在する。これは、権勢の絶頂期にある者が、予期せぬ出来事や判断ミスによって一気にその地位から転落する現象を指す。戦国時代の安国寺恵瓊が織田信長の盛衰を予言したことに由来するとされるこの概念は、現代の政治においても繰り返しその実例を示してきた。ロケットスタートを切り、70%前後の高支持率を維持する高市早苗政権もまた、この「高転び」のリスクとは無縁ではない。憲政史上初の女性首相として、その大胆な発言と行動力は国民の大きな期待を集めているが、その持ち味である歯切れの良い発言が、既に外交上の波紋を広げ始めている。

「高転び」とは何か?歴史が示す権力者の宿命

「高転び」という言葉は、安国寺恵瓊が「信長の全盛は3年から5年で終わる。やがて公家になるかもしれないが、その後には高転びに転んでしまうだろう」と予言したことに端を発する。権力の階段を駆け上がった政治家が、思わぬ落とし穴にはまったり、得意の絶頂期に突然権力の座を失ったりする現象は、日本の政治史において珍しくない。これは、指導者がその権力の高みに達した時ほど、奢りや油断が生じやすく、それが大きな過ちにつながる可能性を秘めていることを示唆している。

橋本・安倍政権に見る「高転び」の教訓

永田町の「高転び」の具体例は枚挙にいとまがない。1997年、初めての小選挙区制での勝利の勢いに乗り、「橋本改革」を推進しようとした橋本龍太郎首相もその一人である。内閣改造人事でロッキード事件で有罪判決を受けた議員を起用したことが支持率急落を招き、「龍さま」と称されるほどの人気を誇った彼も、翌年の参院選で惨敗し退陣に追い込まれた。

また、2006年に小泉純一郎政権の後を継ぎ、戦後最年少で首相に就任した第一次安倍晋三政権も同様の道を辿った。高い支持率を誇ったものの、「お友達内閣」と揶揄された閣僚の不祥事が相次ぎ、翌年の参院選で大敗を喫し、結果的に退陣した。これらの事例は、いかに強固に見える政権でも、そのピーク時にこそ「高転び」のリスクが潜んでいることを如実に物語っている。

衆院本会議で補正予算案可決後、各党へ挨拶に向かう高市早苗首相衆院本会議で補正予算案可決後、各党へ挨拶に向かう高市早苗首相

高市政権、ロケットスタートの背景と期待

高市早苗政権は、就任からわずか1カ月半で70%前後の高い支持率を維持し、まさにロケットスタートに成功した。公明党の政権離脱、日本維新の会との異例の連立合意という難産を経ての船出であったにもかかわらず、高市首相の「自民党らしくない」大胆かつ分かりやすい発言と行動力が、国民の期待感を高めたことは間違いない。憲政史上初の女性首相としての新鮮さ、そしてアメリカのトランプ大統領や中国の習近平国家主席との首脳会談を矢継ぎ早にこなし、新たな外交スタイルを打ち出したことも、その高支持率に繋がっている。

台湾有事発言が投げかける波紋と中国の反発

しかし、高市首相の持ち味である歯切れの良い分かりやすい発言は、早くも国内外で波紋を広げている。首相として初めて臨んだ予算委員会で、立憲民主党の岡田克也氏からの質問に対し、高市首相は「(台湾有事が)戦艦を使って武力行使を伴うものであれば『存立危機事態』になり得る」と答弁した。これは、台湾有事の際には日本も自衛隊を出動させる可能性があることを示唆するものであった。

この発言に対し、中国は激しく反応した。中国政府は、いかなる状況であれ中国の一部である台湾を巡って日本が武力行使を示唆したことに怒りを示し、経済的交流のみならず、人的・文化的交流までも制限する形で日本への圧力を強めている。高市首相自身は「具体的なケースを挙げたのは反省点。今後は控える」と事実上の修正を示唆したが、発言の撤回は拒否。また党首討論では、岡田氏に責任転嫁するかのような言い方で「言いたくはなかったが、岡田氏が繰り返し聞くので予算委を止められないように誠実に答弁した」と釈明しつつも、不用意な発言であったことは認めている。しかし、中国側からの批判はエスカレートの一途を辿っており、高市政権は今後の外交運営において、より一層の慎重さが求められる事態となっている。

結論:高支持率と「高転び」の間に

高市政権は、その発足から高い国民の支持を受け、順調な滑り出しを見せた。しかし、過去の政権が経験した「高転び」の教訓が示す通り、権力の高みにある時こそ、予期せぬリスクに直面しやすい。特に、台湾有事に関する首相の発言は、国際関係における日本の立ち位置に大きな影響を与え、中国からの強い反発を招いている。このような外交上の繊細な問題において、首相の言葉の重みは計り知れない。高支持率の陰で、高市政権がこの「高転び」のリスクをいかに管理し、国民の期待に応え続けることができるか。その手腕が、今後問われることになるだろう。


参考文献: