音楽を携帯プレーヤーで楽しむ層が増え続ける現在は、コンサート会場に足を運んでもらうことが不可欠なオーケストラには厳しい時代といえるだろう。だからこそ、聴衆の存在がより一層オーケストラを輝かせるといっても過言ではない。楽団員の士気を高める上でも、経営基盤を支える上でも、カギを握るのは集客力であり、それを高めるためにはしたたかな戦略が求められる。(安田奈緒美)
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◆目立つ空席
誰も座らない座席のえんじ色が目につく。9月下旬に大阪市内のコンサートホールで開かれた日本センチュリー交響楽団(大阪府豊中市)の定期演奏会。平成元年の設立から大阪府営として潤沢な公的助成に恵まれたセンチュリーだが、23年の民営化から10年近くがたち、経営基盤が大きく揺らいでいる。昨年度には楽団員の年収を平均で105万円もカットするなどして経費削減に努める一方で、力を入れるのが集客力アップの取り組みだ。
試行錯誤を繰り返す中では、不首尾に終わったケースもある。たとえば27年度、定期演奏会を月1回から2回に増やして新たな聴衆を獲得しようと勝負に出たが、聴衆が分散するだけで1日あたりの客数は激減した。「舞台から空いた客席が見えるんです。やっぱりつらいですよ。モチベーションにかかわります」とある楽団員はぼやく。30年度から月1回に戻し、終演後には楽団員全員がロビーに出て聴衆と交流するなどファン獲得にいそしむ。
さらに今年10月からは、タクシー会社と協力して「オーケストラタクシー」(1台)を運行。車内ではオーケストラのCDが流れ、定期演奏会の10日前から前日までの間にこのタクシーに乗車した客を対象に、先着で毎月150組300人を無料で定期演奏会に招待する。これまでに約60人が利用したという。
9月の演奏会の客の入りは6割程度で、まだ改善の余地はあるが、望月正樹楽団長は前向きだ。「大阪府という大スポンサーに長年支えられてきましたが、今は小口でも支援してくれる企業、そして何よりセンチュリーの演奏が好きだというお客さんを地道に掘り起こしていきたい」
◆後発ながら
関西には、他楽団がうらやむオーケストラがある。毎月3日間にわたって開催する定期演奏会の券売率は9割近く、約2千席のホールをほぼ満席にする兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC、兵庫県西宮市)。関西きっての集客力を誇るオーケストラは平成17年、阪神大震災の復興のシンボルとして建設された兵庫県立芸術文化センターの専属楽団の位置づけで設立された。