深刻化する子どもの睡眠不足:学力低下と校内暴力の新たな要因か

令和の時代を生きる子どもたちの間で、スマートフォンやゲームの利用に起因する深刻な睡眠不足が問題となっています。疲労から授業中に集中力を欠くだけでなく、中には眠気のため保健室を「仮眠室」として利用する小学生まで現れていると言います。しかし、この問題がもたらす影響は、学業への支障にとどまりません。睡眠不足のまま登校することが、教室で予期せぬトラブルを引き起こし、子どもたちの間で衝突が生じる危険性を高めていることが指摘されています。

「推奨睡眠時間」に届かない現実

校内暴力の増加の一因として、子どもたちの生活リズムの大きな乱れが挙げられます。その乱れは、子どもたちの睡眠時間の実態を見れば明らかです。厚生労働省は、子どもの心身の健全な発達のために十分な睡眠時間が不可欠であるとし、年齢別の推奨睡眠時間を公表しています。具体的には、1~2歳児で11~14時間、3~5歳児で10~13時間、小学生で9~12時間、中高生で8~10時間です。しかし、多くのグラフデータが示すように、現在の子どもたちの多くは、この国の推奨する睡眠時間に達していません。小学生でありながら、大人と同程度の睡眠時間しか取らずに登校する子どもも珍しくなく、全体的に就寝時刻も遅くなる傾向にあります。

授業中の居眠りから「保健室の仮眠室化」へ

教育現場の教師たちも、子どもたちの睡眠不足を強く感じています。千葉県の小学校教員の証言によれば、「年々、授業中に眠たそうにしている子が増えている。寝坊して遅刻する子は当たり前で、単なる居眠りにとどまらず、1時間目から5時間目までずっとうつらうつらしている子がクラスに数人いる」とのことです。このような子どもたちは一時的なものではなく、週のほとんどが同じような状態であり、家庭での睡眠が不足していると推測されます。かつて体調不良の子どもが利用する場所であった保健室が、今では「眠いから」という理由で利用され、「仮眠室」と化している実態には驚きを隠せません。

スマートフォンやゲームの影響で睡眠不足に陥る子どものイメージスマートフォンやゲームの影響で睡眠不足に陥る子どものイメージ

睡眠不足が子どもに与える多岐にわたる影響

厚生労働省は、睡眠不足が子どもたちの身体的な発達を阻害するだけでなく、精神面や行動面にも以下のような様々な悪影響をもたらすと警鐘を鳴らしています。

  • イライラ
  • 注意力低下
  • 多動・衝動行為
  • 食欲不振
  • 集中力低下
  • 易疲労感

さらに、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史氏は、アメリカの9~10歳の小学生を対象とした調査結果に触れ、睡眠不足の子どもはそうでない子どもに比べてメンタル関連の指標が全て悪く、問題行動が多く、そして何よりも認知能力が低下していたと指摘しています。また、日本の調査でも、睡眠不足の子どもは「イライラしていることが多い」と答える傾向が強く、感情的に不安定でイライラを募らせていることが明らかになっています。

自律神経の乱れが引き起こす「衝突」のリスク

このような睡眠不足による特徴が子どもたちに見られる状況では、学校で些細なことで同級生や教師と衝突し、暴力を振るったり、物を破損させたりする事態が発生することも容易に想像できます。つまり、現代の子どもたちは睡眠不足が原因で自律神経が乱れており、それゆえに他者との衝突を招きやすくなっているのです。

子どもの睡眠不足は、単なる集中力の低下に留まらず、情緒不安定、認知能力の低下、さらには他者との摩擦や暴力といった深刻な問題を引き起こす可能性を秘めています。この見過ごされがちな問題に対し、社会全体で真摯に向き合い、子どもたちが十分な睡眠を確保できる環境を整えることが、健全な成長と社会性の育成のために不可欠であると言えるでしょう。