【台湾有情】冷静と情熱のあいだ





18日夜、台湾の総統選で政見発表会に臨む(左から)蔡英文、宋楚瑜、韓国瑜の各候補(中華テレビ提供)

 20年ほど前に「冷静と情熱のあいだ」という小説があった。恋愛物で、男女の主人公の目線を男性と女性の作家が書き分けており、それぞれの見ている世界が違って面白かった。

 恋愛とは関係ないのだが、台湾の総統選を見ていて、ふとその題名が頭に浮かんできた。対照的な男女2人の候補者、民進党の蔡英文総統と国民党の韓国瑜高雄市長のことである。

 学者出身の蔡氏の演説は、つどつどの政策の説明が多く、話し方は理性的で「冷静」だが、悪く言えば面白みに欠けるところがある。聴衆の反応もいまひとつだ。一方、昨年までほぼ無名だった韓氏は、「情熱」的で感情に訴えるのだが政見はあまりなく、同じことを言い方を変えて話しているだけ。それでも聴衆は熱狂的な反応を見せる。

 演説だけみると、民意に訴えるには2人の「あいだ」くらいがちょうどよいのでは、と思えてくる。だが、昨年は韓氏の手法が受けて「韓流」と呼ばれるブームを生み、今年後半は蔡氏の声の方がより有権者の耳に入りやすいようだ。

 民意とは時に恐ろしく、そして尊いものだ。民意を反映する制度を持たない中国と対(たい)峙(じ)している台湾にいると、とりわけそのことを感じさせられる。来月の今ごろには、台湾の民意はとうに「冷静」と「情熱」のどちらかを選んでいる。(田中靖人)



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