一般に知られることのない莫大な秘密資金の存在を匂わせ、巧妙に投資を迫る「M資金詐欺」は、これまで数々の経営者や資産家から巨額の資金を巻き上げてきました。そのルーツは終戦後、「GHQが日本から接収した資産を隠している」という荒唐無稽な噂に端を発すると言われています。なぜ、名のある権力者たちが次々とこのような虚構の物語を信じてしまったのでしょうか。本記事では、外食チェーン大手コロワイドの会長、蔵人金男氏が31億円以上もの大金を騙し取られたとされる驚くべき「M資金詐欺」の手口とその実態に迫ります。
「M資金」の魔力と巧妙な詐欺スキームの始まり
M資金詐欺の中心にあるのは、実体のない秘密資金をちらつかせ、ターゲットの欲望や野心につけ込む巧妙な心理戦です。この種の詐欺は、高額なリターンや特別なコネクションを謳い文句に、社会的な信用がある人物ほど容易に陥ってしまう危険性を秘めています。蔵人会長の事例も、まさにその典型と言えるでしょう。2017年7月21日、当時69歳だった蔵人金男会長は、「アジア経済協力会議所」という一般社団法人を訪れました。横浜に本社を置く蔵人氏にとって、東京の都心へ足を運ぶのは異例のことでした。
秘密資金を管理するとされる「アジア経済協力会議所」の実態
蔵人会長が車を京橋インターチェンジで降り、西へと向かった先は、東京駅前の高層オフィスビル群の一角、皇居に面した瀟洒な丸の内郵船ビルディングでした。しかし、その目的地「アジア経済協力会議所」は、ビルの1階にある大手レンタルオフィス会社の一ブランチに過ぎず、来訪者を迎え入れるための看板すら掲げられていませんでした。この会議所の存在を蔵人氏に紹介したのは、以前に工作機械メーカー、ソディックの会長を務め、当時は自ら設立した「TGコンサルタント」の社長を名乗っていた塩田成夫氏(当時69歳)でした。塩田氏は、蔵人氏が「この世界では顔が広く、お金が出せるらしい」と評価されていたため、この話を持ち込んだようです。
コロワイド会長 蔵人金男氏の肖像
蔵人会長は、この訪問に先立つ2日前に、「ご提案書」と題した書面をアジア経済協力会議所宛てに提出していました。その書面には、さらなる事業拡大のためにまとまった資金を調達したいという強い思いが綴られていたのです。約束の日に蔵人氏と塩田氏が現地に到着すると、「国際プロモート」の特別顧問である吉江節子氏と「ササキシズオ」と名乗る男性が彼らを待っていました。塩田氏自身も、この「アジア経済協力会議所」の存在を人づてに聞いていたに過ぎません。4人のうち、建物の中へ入っていったのは蔵人氏と吉江氏の2人のみ。そこで彼らを出迎えたのは、アジア経済協力会議所で「専務理事」を名乗る長身の中年男性でした。当時の蔵人氏は知る由もありませんでしたが、この専務理事は57歳で、蔵人氏よりも一回り年下でした。これが、後に巨額の詐欺被害へと発展する第一歩となったのです。
巨額詐欺被害が示す警告
コロワイド会長・蔵人金男氏を襲ったM資金詐欺の事例は、いかに社会的な地位や経験を持つ人物であっても、その巧妙な手口によって騙されうるかを示しています。GHQが関与する秘密資金という非現実的な物語が、事業拡大への渇望と結びつき、結果的に莫大な損失を生み出しました。 M資金詐欺は、信憑性の低い情報源、非公開の特別な取引、そして高額なリターンを強調する傾向があります。投資を検討する際は、常に情報源の信頼性を確認し、透明性の高いプロセスと専門家のアドバイスを求めることが不可欠です。本件は、どんなに魅力的な話であっても、その裏に潜む危険性を冷静に見極めることの重要性を私たちに強く訴えかけています。





