2025年秋クールは、ドラマファンにとってまさに“豊穣の秋”となりました。この秋は、日本を代表する三谷幸喜氏、野木亜紀子氏といった大御所脚本家たちが、それぞれの個性が際立つ物語を描き出し、多くの視聴者を魅了しました。彼らの作家性が色濃く反映された注目作品についてご紹介します。
三谷幸喜氏が描く人間模様の妙『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
まず、三谷幸喜氏が民放ゴールデン・プライム帯の連続ドラマ脚本を25年ぶりに担当した完全オリジナル作品『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』（フジテレビ系）です。本作は、1984年の東京・渋谷の裏通り「八分坂」にある劇場を舞台に、演劇青年・久部（菅田将暉）を中心に、老若男女の人生が交錯する群像劇として展開されました。
三谷幸喜氏のドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』の一場面
各話のタイトルやモチーフにはシェイクスピアの引用が散りばめられ、「人は日常で役割を演じ、本音は舞台裏に隠す」という構造が軸となっています。三谷作品らしい、人と人との“すれ違い”が生み出す妙が光る会話劇が繰り広げられました。登場人物たちが抱える小さな嘘や見栄は、自分を守るためであり、時には誰かを傷つけないための優しさでもあります。その優しい嘘から連鎖する小さな誤解が、クスッと笑えるのにふと孤独や哀愁を差し込ませるという絶妙な匙加減で描かれています。劇場という“箱”の中で、出入りや立ち位置が変わるだけで関係性が揺れ、セリフのリズムが感情の波を作っていくのは、まさに三谷作品ならではの手法です。会話劇の強度を最大化し、アンサンブルの呼吸で“人間の多面性”を見せていく手腕はさすがの一言でした。主演の菅田将暉をはじめ、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、戸塚純貴、市原隼人ら超豪華キャストたちが織りなすコミカルで熱量の高い会話劇は圧巻で、全11回にわたり視聴者を大いに楽しませてくれました。
野木亜紀子氏の構成力が光るSFファンタジー『ちょっとだけエスパー』
次に、『ちょっとだけエスパー』（テレビ朝日系）も、野木亜紀子氏の卓越した“構成力”に唸らされる作品でした。完全オリジナル脚本で描かれた本作は、すべてを失った主人公・文太（大泉洋）が「ちょっとだけエスパー」となり、仲間たちと共に世界を救うミッションに巻き込まれていく物語です。
2025年秋クールに話題作を手掛けた大御所脚本家たち
文太はまた、謎の女性・四季（宮﨑あおい）と仮初めの夫婦として暮らすよう命じられ、日常の延長にある“違和感”が少しずつ積み上がっていくという展開が視聴者の興味を引きつけました。野木氏ならではの緻密なストーリーテリングと、キャラクターが織りなす人間ドラマが深く心に響く作品となっています。
結論
2025年秋クールは、三谷幸喜氏と野木亜紀子氏という、日本を代表する異なる作風の脚本家たちが手がけた珠玉の作品群によって、ドラマファンにとって忘れがたい豊かなシーズンとなりました。両氏が持つ独自の視点と表現力は、テレビドラマの可能性を広げ、視聴者に深い感動と興奮をもたらしました。今後も彼らの手から生み出される新たな物語に、大きな期待が寄せられます。
