長年証券会社に勤務し、堅実な資産形成をしてきた父の預金通帳から、ある日突然5000万円が消えていた――。これは、誰の身にも起こり得る「老後の落とし穴」を浮き彫りにする実話に基づいたケースです。この衝撃的な事例を通して、高齢期の財産管理の重要性と、予期せぬトラブルから身を守るための対策について、詳しく解説します。
神奈川県相模原市に住む美和子さん(仮名・58歳)は、亡くなった父・義伸さん(仮名)の遺産整理中に、信じられない事実に直面しました。元証券マンとして約1億円もの金融資産を築いていたはずの義伸さんの預金口座から、わずか数年のうちに5000万円もの大金が消えていたのです。美和子さんは、父が70代で再婚した後妻・恵子さん(仮名)とこの財産が消費されたのではないかと疑念を抱きました。
堅実な元証券マンが直面した現実
義伸さんは、大手証券会社で定年まで働き上げ、退職金と長年の運用益で豊かな老後資金を準備していました。しかし、妻である邦子さん(美和子さんの母)が他界した後、一人暮らしの寂しさと生活の不便さを感じるようになります。元来、女性との交流を好む性質もあり、義伸さんは60代半ばから様々な女性と交流を楽しんでいました。
そんな中、家政婦として招き入れた恵子さんとの出会いが、義伸さんの老後を大きく変えることになります。恵子さんは美和子さんと同年代で、介護資格も持っていました。美和子さんの目には、恵子さんが父の身の回りの世話を献身的に行う姿が映り、当初は好意的に見ていたと言います。しかし、恵子さんの派手な装いや、父が彼女に高価な品々を買い与えている可能性に、徐々に不安を感じ始めていました。「家政婦というより、愛人だったのかもしれない」と美和子さんは当時を振り返ります。
老後の資産形成と金銭トラブルのイメージ写真
資産形成のプロが陥った「老後の落とし穴」
恵子さんが義伸さんの家に出入りするようになってわずか1年後、美和子さんに何の説明もなく、義伸さんは恵子さんと入籍してしまいます。突然の再婚に猛反対した美和子さんでしたが、義伸さんは頑として耳を傾けませんでした。これを機に親子間の交流は途絶えがちになり、その後、義伸さんは病に倒れ亡くなってしまいます。美和子さんは、父の幸せを願いつつも、この再婚が何か大きな問題を引き起こすのではないかという拭えない不安を抱えていたのです。
亡き後、発覚した5000万円の使途不明金
義伸さんの死後、相続手続きを進める中で美和子さんは愕然としました。本来1億円近くあったはずの金融資産が、約5000万円にまで激減していたのです。取り寄せた過去数年分の預金口座の取引履歴には、毎月数十万から数百万円に及ぶ「生活費」の名目での高額な引き出しや、恵子さんの口座への振り込みが大量に記録されていました。
美和子さんが恵子さんを問い詰めると、恵子さんは「私は義伸さんの妻として、身の回りの世話をしていた。入通院の費用も払った。夫婦水入らずの旅行も行ったが、何が悪いのか。娘さんは介護をしていないでしょう。私は確かに義伸さんからお金や高級な時計をもらったが、『介護のお礼に』ともらった生前贈与だ」と主張しました。もちろん、その贈与に関する書面や契約書は一切存在しません。さらに恵子さんは、残った5000万円についても、妻としての法定相続分(2分の1)を主張し、一歩も譲ろうとはしませんでした。この事例は、高齢者の再婚が引き起こす財産トラブルの深刻さを物語っています。
専門家が語る「老後の財産トラブル」への備え
義伸さんのケースは、長年築き上げた財産が、予期せぬ形で失われる可能性があることを示唆しています。このような「老後の落とし穴」を避けるためには、事前の対策が不可欠です。大村隆平弁護士の監修のもと、以下の点が特に重要とされます。
- 遺言書の作成と更新: 自分の財産を誰にどのように残したいかを明確にする遺言書は、トラブル防止の最も基本的な手段です。特に再婚の際には、財産分与について具体的に記述しておくことが重要となります。
- 成年後見制度の検討: 判断能力が低下した場合に備え、事前に信頼できる家族や専門家を後見人に指定する成年後見制度の活用も有効です。これにより、本人の財産が不適切に消費されるのを防ぐことができます。
- 家族間のオープンなコミュニケーション: 家族間で財産管理や老後の生活設計について話し合い、互いの状況を理解しておくことが、不必要な誤解やトラブルを避ける上で不可欠です。
- 定期的な財産状況の確認: 高齢になった親の財産状況を、本人の同意のもとで定期的に確認する習慣を持つことも、早期に異変を察知するために役立ちます。
この事例は、単なる家族間の争いだけでなく、高齢者が直面する財産管理の脆弱性と、それに伴う法的な問題提起でもあります。日本社会が高齢化する中で、このような問題は今後も増えていくことが予想されます。大切な財産を守り、安心して老後を送るためにも、早めの対策と専門家への相談を強くお勧めします。
参考文献:
- ライター 岩田いく実、監修/大村隆平弁護士による実例記事
- Yahoo!ニュース (記事元: DIAMOND online)





