老親が離れて暮らしている場合、なかなか異変に気付くことができない。本記事では、実例を基に、久しぶりに実家に帰宅した娘が見た「父の異変」と、なぜ堅実な性格の父の預金通帳から9000万円が消えていたのかについて詳しく解説する。どう対策すればよかったのか、大村隆平弁護士に聞いた。(ライター 岩田いく実、監修/大村隆平弁護士)
【グラフ】1980年→2023年で激変した「高齢者・一人暮らし」の動向
● 通帳から消えた 9000万円
子どもと離れて暮らす高齢者は増加傾向にあります。そうした老親が狙われ、9000万円もの資産が消えたという実例をもとに、具体的な手口を解説します。狙われた際の対処法について、相続案件を専門とする大村隆平弁護士に取材しました。
都内に夫と2人で暮らす夏美さん(仮名・42歳)は、栃木県出身。大学進学の際に都内に引っ越し、その後現在に至るまで都内に居住。一人娘だということもあり、実家には年に2回欠かさずに帰省してきました。
10年前に母の君枝(仮名)さんが突然の脳出血で他界。父の光男さん(仮名・75歳)はその後、栃木県内で自己所有する自宅に一人で暮らしていました。
「母が亡くなったとき、都内で一緒に暮らそうかと誘ったのですが、慣れない土地で暮らすのを嫌がったんですよ。母も祀る実家の仏壇は田舎によくある大きなサイズで都内には持っていけないから、栃木に残ると言っていたんです。正直、世間の70代はお元気な方が多いので、父も大丈夫だろうと思っていました」
光男さんは軽度のリウマチを患い、定期的に通院していましたが食欲もあり、散歩も楽しんでいる様子でした。
しかし、そんな光男さんに異変が起きたのは2年前のこと。堅実な性格で栃木県内の金融機関に長年勤務し、退職後も資産運用を続けていたため1億円程度の預貯金があった光男さんの通帳には、1000万円の数字しか残されていなかったといいます。
● 急いで実家に帰ると 父は女性とその子ども2人と暮らしていた
異変の原因は、光男さんの「再婚」でした。地元の親戚から一本の連絡が入り、事態を知った知った夏美さん。当時、光男さんは73歳で、再婚相手はまさかの45歳。介護ヘルパーだったゆかり(仮名)さんという女性だと聞いて、夏美さんは頭が真っ白になりました。急いで実家に帰ると、驚くことに父とゆかりさん、ゆかりさんの子2人が暮らしていました。
光男さんは妻が他界した後、地元の友人と飲みに歩く生活をしていました。長年連れ添った妻がいなくなり、寂しさから酒量も増えていたようです。
そんなときに、介護ヘルパーの資格を持ち、スナックで働くゆかりさんに出会いました。ゆかりさんは光男さんが頻繁にスナックで過ごす様子から、家に手料理を届ける関係に。その後も献身的に世話をしていたようです。
「親戚から聞いたら、ゆかりさんはいい子で愛情表現もしてくれると。彼女がいないと何もできないくらい頼るようになったようです。その話を聞いて最初は『父が幸せなら』と思いました。でも、ゆかりさんがご自分の子ども2人を私立の大学に通わせていると知り、胸騒ぎがしました」
● 父の身に起きた大きな異変 高級車の購入、家具や家電を買い替え
再婚に不安を感じた夏美さんは、月に1度父を訪ねるようになりました。すると、夏美さんの名前を忘れていたり、前までは好きだった車の運転をやめ、運転免許証も返納していたりと大きな変化に気付きました。
さらに、父の通院のためにと高級国産車が購入され、車庫も新設。次々と家具や家電も買い替えられていくため、ついに夏美さんはゆかりさんに、光男さんの通帳を見せるようにと詰め寄り、1億円程度の預貯金が1000万円に減ったことを知り、愕然としたと言います。
ゆかりさんに問い詰めると、「家族4人が仲良く暮らすために、車を買い替えました。70代に運転させるのは危ないでしょう? 家具や家電は前の奥さんのもので、古いから買い替えているだけです」と言うのです。






