愛子さまの公務における落ち着いたご振る舞いや知性的なお言葉、そして日本初の女性首相誕生という社会情勢の中で、「愛子天皇論」を待望する声が急速に高まっています。しかし、こうした高まりの陰で、識者からは「最も大切な視点が見落とされている」との指摘も上がっています。時代とともに変化する皇室と社会の価値観の中で、私たちは何を見つめ直すべきなのでしょうか。
社会変革と「女性リーダー」の台頭
現代社会において、皇室を取り巻く価値観は大きく変化しました。特に戦後、女性の働き方や社会参画のあり方は目覚ましい変革を遂げました。1985年の男女雇用機会均等法制定から40年が経ち、管理職に就く女性は珍しくなくなり、昨年秋にはついに憲政史上初の女性首相である高市早苗氏が誕生しました。社会が女性リーダーの存在を「当然」と受け止める雰囲気の中で、「愛子天皇論」はますますその勢いを増しています。
表層的な「女性ブーム」への警鐘
しかし、ジェンダー論に詳しい東京大学大学院の藤田結子准教授(社会学)は、皇室に関する考察は専門外としながらも、「愛子天皇論」の盛り上がりには単純ではない側面があると指摘します。藤田准教授は、女性首相の誕生や女性の活躍に対する好意的な見方は若い世代にも広がっているものの、それが高市首相の政策や政治思想への深い理解に基づいているわけではなく、単に「フレッシュな印象」に惹かれているに過ぎない「表層的な日本に渦巻く『女性ブーム』」である可能性を示唆します。同様に、「愛子天皇論」や「愛子さまブーム」も、愛子さまの「温厚で知的で品のあるプリンセス」というキャラクターへの注目に終始しているのではないか、と問いかけます。
現状では、「女性天皇論」や結婚後も皇室に残る制度、また「女性宮家創設」といった動きが注目を集めているのは確かです。しかし、「女性天皇」と「女系天皇」の違い、あるいは「愛子天皇」の誕生が皇室の存続にどのような影響を与えるのかといった、皇室制度の根幹や歴史的背景に深く踏み込んだ議論への関心は、残念ながらまだ高いとは言えません。
雅子さまと手をつなぎ、学習院初等科の入学式に向かう愛子さま
「愛子さまご自身の意思」という核心
藤田准教授は、「愛子天皇」の是非を議論する前に、「まず考えるべき、一番大切なことを見落としてはいないでしょうか」と強く問いかけます。「愛子さまご自身が、あるいはご両親である天皇陛下と皇后雅子さまが、愛子さまが天皇になることを本当に望んでいるのかどうか。そして、結婚しても皇室に残りたいと、ご本人が希望しているのか。そうした視点も含めて議論するべきだと思います」と述べています。
社会において女性が自身の生き方を自由に選択できるようになった現代において、その根底にあるのは「女性たちが自分の生き方を自分で選択できるようになった」という事実です。「結婚するのか、しないのか。どんな職業に就き、どんな働き方をするのか。女性たちが自分で全て決めたといえるようになったのが今の社会です」と藤田准教授は指摘します。この現代社会の価値観を皇室にも当てはめて考えるべきではないでしょうか。
学習院初等科運動会でリレーに出場し、優勝を喜ぶ愛子さま(2009年10月17日)
皇室の声:生身の人間としての皇族
こうした「個人の意思」を尊重する願いは、皇室の内部からも発せられています。2024年のご自身の誕生日会見で、秋篠宮さまは「該当する皇族は生身の人間なわけで──」と述べられました。皇室制度を変える議論を行う際には、「その人たちがそれによってどういう状況になるのか、(略)その人たちがどういう考えを持っているか」を、少なくとも宮内庁は理解する必要があるのではないか、と訴えられています。
高まる「愛子天皇論」と国民の期待。その大きな潮流の中で、愛子さまご自身は、自身の歩む道をどのように見据え、どのようなお考えを持っていらっしゃるのでしょうか。社会が女性の活躍を歓迎する時代だからこそ、皇室の未来を論じる際には、何よりもまず、ご本人の意思と幸せを深く尊重する視点を持つことが不可欠です。
参考文献: AERA 2026年1月12日号





