NHKは、現在の公共放送からインターネットも活用した「公共メディア」を目指している。放送と同時にテレビ番組をネットでも流す常時同時配信はその象徴ともいえるサービスだが、実施の前提として求められてきた経営改革が十分に進んでいるとは言い難い。NHKの肥大化を懸念する総務省や民放はさらなる取り組みを求めており、今後も厳しい目が注がれることになる。
「既存業務の大胆な見直しによる事業規模の適正化や、いまだ手つかずの受信料体系・水準などのあり方の見直しが前進することを強く期待する」
総務省が23日に発表したパブリックコメントの中で、日本民間放送連盟(民放連)はこう主張した。
パブコメとともに総務省が公表した見解では、ネットにかける費用を圧縮するというNHKの方針を大筋で評価。しかし、ネット業務の見直しと合わせて求めていた業務スリム化、受信料値下げ、ガバナンス(組織統治)改革の「三位一体改革」については、「具体的取り組み内容を早期に明らかにし、次期中期経営計画などに反映することが必要」などと注文を付けた。
総務省の要請を受け、NHKが今月8日に示した回答では、受信料のあり方や業務見直しについてあいまいな表現が目立っていた。
例えば、受信料については「事業規模の適正水準での管理を進め、中長期の事業計画や収支見通しをふまえながら、適正な受信料の在り方を引き続き検討する」と説明。衛星放送を現在の4波から3波に削減・整理する方針を打ち出したものの、実施時期までは明らかにされていない。
高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムの商用化が近づき、若年層を中心にテレビ離れが進んでいる。こうした時代の中、NHKは公共放送から公共メディアに進化しようとしている。常時同時配信は、放送と通信の融合時代を象徴するサービスといえる。ただ、その前提として、三位一体改革を求めていた民放、そして視聴者の理解を得ることは公共性の観点から欠かせない。
立教大の服部孝章名誉教授(メディア法)は、「莫大(ばくだい)な予算を自由に使える立場にあるNHKは、集めた受信料をどのように使って、日本の放送、通信にどのように貢献していくのか、視聴者に丁寧に説明することが必要だ」と指摘した。