【よみがえるトキワ荘】未来へ(2)昭和文化の「加速装置」を今に



紙芝居の実演も行われた「トキワ荘大学文化祭」=昨年10月27日、豊島区南長崎(荻野健一教授提供)

 「トキワ荘大学文化祭」の横断幕の向こうに、「昭和」が広がっていた。昨年10月27日、豊島区の南長崎花咲公園。駄菓子屋さん、昔のおもちゃの展示、古本漫画の販売。紙芝居が始まると子供たちが集まり、しゃがんで見上げた。トキワ荘でよく飲まれた焼酎のソーダ割り「チューダー」も1杯100円で提供。近くの商店街では、住人がよく通った喫茶店「エデン」のイメージが再現された。

 主催は「としま南長崎トキワ荘協働プロジェクト協議会」で、デジタルハリウッド大学大学院(千代田区)などが協力した。トキワ荘大学は「懐かしい未来」をテーマに、トキワ荘や地域の歴史などを研究し、地域振興に役立つ体験、イベントを生み出すことを目的としたプロジェクトだ。誰でも参加でき、「文化祭」に先立つ10月20日には地元小学校で、今後展開する「まちゼミナール」のガイダンスや識者の対談が行われた。

 このガイダンスを担当した同大学院の荻野健一教授(61)は、「トキワ荘は当時、文化の『加速装置』だったのではないか」という視点を示す。加速装置とは、住人だった石ノ森章太郎の代表作「サイボーグ009」の主人公の能力に引っかけた表現だ。

 「アメリカで流行したSFが日本に入ってきた時代に、『未来にはロボットが友達になる』という日本にしかない概念を住人たちはつくった。アトムもドラえもんもそうです。善と悪を表裏一体でとらえる概念も世界的にはなかった。トキワ荘で夜な夜な繰り返された議論で『加速』されたものが、いろんな形で出てきたのが、各先生たちの作品なのでしょう」

 トキワ荘大学の取り組みのほかに、荻野教授は地元小学校の児童が総合学習でトキワ荘を学ぶことにも協力している。来年度から近隣の大学と「トキワ荘学会」をつくる動きもあるという。

 「単に昔の先生たちは偉かったね、という会合をやっても若い人たちは興味を持たない。トキワ荘という加速装置を現代によみがえらせるためには、どうしたらいいのかが今のテーマ。東京五輪や大阪万博は、世界に向かって加速装置を広げる機会でもある」

 まちゼミナールは、2月23日に西池袋の自由学園明日館で「マンガと人工知能」をテーマに開催予定。「トキワ荘マンガミュージアム」開館1週間前の3月15日にも、現地周辺でイベントとゼミが開かれる。同ミュージアムが、こうした活動の拠点になることは間違いない。



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