中国の習近平国家主席の今年最初の外遊先は、ミャンマーだった。中国国家主席の19年ぶりの訪問で2日間滞在し、アウン・サン・スー・チー国家顧問らと会談した。
国際社会から少数民族の迫害を非難されているそれぞれの問題で両国は互いの立場を支持した。巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた協力体制の強化でも一致した。
習氏自らの「善隣外交」で両国が何を得て、国際社会にどう映ったか。日本が習氏を国賓として迎えるなら、このことを念入りに吟味すべきである。
政治体制や人権状況で非難を受けて孤立した国に経済協力で歩み寄り、取り込んでしまうのが中国の常套(じょうとう)手段だ。
非難を浴びるイスラム系少数民族ロヒンギャの問題で自力解決を支持した中国に対し、ミャンマーは共同声明で「台湾、チベット、新疆ウイグルでの問題解決への努力を支持する」と表明した。
中国によるウイグル人に対する大量の強制収容、虐待、拷問は世界が問題視している。少なくとも声明に明記することは避けるべきだった。
習氏にとって、より大きな成果は、「一帯一路」の一環である中国内陸部とミャンマーの沿岸部を道路や鉄道で結ぶ「中国・ミャンマー経済回廊」などインフラ開発の推進で合意したことだ。
ミャンマー側は過剰な借金で返済困難となる「債務のわな」に陥らないよう細心の注意が必要である。インド洋の港湾拠点を握られることになりかねないからだ。
スー・チー氏はかつて、軍事政権下のミャンマーで軟禁下に置かれながら民主化の主張を貫き通した。権力の側となり、現実的な政治家になったつもりなのかもしれないが、実利で中国と結びつく姿勢には世界が失望している。
東南アジア諸国連合(ASEAN)では、南シナ海の軍事拠点化を進める中国に対し、ベトナムの反発が際立っている。ミャンマーへの接近は南シナ海をめぐるASEANとの交渉で優位に立つ思惑もある。親中派を増やし、ベトナムなどとの分断を進めるのだ。
日本に対しても中国は「一帯一路」での補完関係などを望んでいる。だが米中は「新冷戦」と呼ばれる対立関係にある。日本はまず米国との強固な関係維持を最大限に優先すべきである。