※この記事は、月刊「正論3月号」から転載しました。ご購入はこちらへ。
「私は今、レバノンにいる。もはや私は有罪が前提とされ、差別が蔓延し、基本的人権が無視されている日本の不正な司法制度の人質ではなくなる」 保釈中だった日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(65)が国外逃亡し、複数の欧米メディアがゴーン被告の声明を伝えたのは、日本時間の大晦日の早朝だった。
後に米陸軍特殊部隊「グリーンベレー」の元隊員らを雇い、音楽コンサート設備用の大きな箱に身を隠して関西空港のエックス線検査をすり抜け、プライベートジェットで不法出国したとみられることが判明する。ゴーン被告は裁判所が命じた海外渡航禁止の保釈条件を破り、不法出国した上で、世界中に向け、日本の司法制度を「差別蔓延」「人権無視」「人質司法」だと批判したのである。
これほど日本の刑事司法が蹂躙(じゅうりん)されたことはかつてないだろう。なぜこんな国辱的な事態になったのかを考えたとき、一つの結論に行き着く。それは日本の刑事司法の頂点に立つ裁判所が「ぶれた」ことに原因があるのではないか、と。端的に言えば裁判所の「自業自得」ということである。
業績が低迷していた日産をV字回復させるなど世界的なカリスマ経営者として知られたゴーン被告が東京地検特捜部に逮捕されたのは平成30年11月19日。過去5年度分の役員報酬を約50億円過少に有価証券報告書に記載したという金融商品取引法違反容疑だった。
だが捜査には国内外から思わぬ逆風が吹く。特に目立ったのは欧米メディアからの「長期勾留」「人質司法」といった日本の刑事司法制度に関する批判だった。特捜部が12月10日に、別の3年度分の過少記載の容疑で再逮捕すると「勾留を延ばす目的で容疑の期間を分割した」(弁護団)との声が上がり、批判はピークに達した。