政府は7日、「北方領土返還要求全国大会」を東京都内で開催する。先の大戦で日本のポツダム宣言受諾後にソ連(当時)が奪取した領土は、戦後75年を迎える今もロシアによる占領が続く。安倍晋三首相は露側を刺激する「不法占拠」などの表現を封印し、領土問題の早期解決を目指すが、打開の糸口さえ見いだせていないのが実情だ。
対露交渉に携わった谷内正太郎前国家安全保障局長は先月24日のBSフジ番組で、露側が「日本に駐留する全ての外国軍隊の撤退」を求めていると明かした。
外国軍隊の撤退は昭和35年の日米安全保障条約改定直後から、ソ連が歯舞(ほぼまい)群島と色丹(しこたん)島の返還条件の一つとして日本に突きつける要求だ。ただ、両島を平和条約締結後に引き渡すと確認した31年の日ソ共同宣言調印時にはすでに米軍が駐留しており、ソ連に領土返還の意思がないことを示す根拠の一つとなっている。
ソ連はその後、「領土問題は解決済み」との立場をとり、交渉に応じなかったが、平成3年のソ連崩壊で事態が動いた。民主化と自由主義経済導入という急激な改革で国民生活が混乱したロシアは日本の経済協力を期待し、交渉のテーブルに着くようになった。
「四島一括返還」を主張してきた日本も柔軟路線に転じた。10年には橋本龍太郎首相(当時、以下同)がエリツィン大統領に国境画定後も当面はロシア側の施政権を認める案を提示し、森喜朗首相は13年にプーチン大統領に歯舞、色丹の引き渡しと、択捉、国後の帰属問題を分けて議論する「並行協議」を提案した。
日本の国内政局の変化で交渉は頓挫したが、元政府高官は「北方領土問題が前向きに動き始めたときだった」と振り返る。
いま、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)両島の返還に触れていない日ソ共同宣言を基礎とした交渉を加速させる安倍首相は「四島返還」の旗を降ろしたとも指摘される。対露経済協力にも意欲的だが、ロシア側は昨年1月の国家安全保障会議で「交渉を急がない」との方針を決定し、再び態度を硬化させている。(力武崇樹)