子供の父親であることを法的に否定する「嫡出(ちゃくしゅつ)否認」の訴えを起こせる権利を夫側のみに認めた民法の規定は男女同権を定めた憲法に違反するとして、神戸市の女性らが国に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(岡村和美裁判長)は、原告の上告を退ける決定をした。国会の立法裁量を重視し、合憲と判断して請求を認めなかった1、2審判決が確定した。
第2小法廷は決定で、上告理由に当たらないとし、違憲性について自ら判断を示さなかった。5日付。4裁判官全員一致の結論。
民法は妻が結婚中に妊娠した子は夫の子と推定すると規定。結婚から200日経過後や離婚や夫との死別から300日以内に生まれた子も結婚中に妊娠したと推定する。この推定を覆す「嫡出否認」を訴える権利は夫にのみ認められ、妻や子に許されていない。
原告の女性は昭和57年、当時の夫から暴力を受けて別居。その後、夫との離婚が成立する前に別の男性との間に娘が生まれ、男性を父とする出生届を提出したが、「妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定する」との民法の規定を理由に男性との間の子とする出生届は受理されず、娘は無戸籍者になった。その後、娘が産んだ孫2人も無戸籍者となった。
平成29年11月の1審神戸地裁判決は「嫡出否認規定は、婚姻中の夫婦に生まれた子の身分の安定や利益確保が目的で合理性がある」と判断。30年8月の2審大阪高裁も同様に、規定には合理性があり、違憲ではないとして1審を維持した。
一方、嫡出否認規定をめぐり、東海地方に住む夫婦と子が国に損害賠償を求めた同様の訴訟についても、最高裁第1小法廷(木沢克之裁判長)は原告の上告を退ける決定をした。原告側は、女性だけに再婚禁止期間を設けた民法の規定も違憲と主張したが、いずれも合憲と判断した1審東京地裁、2審東京高裁判決が確定した。6日付。5裁判官全員一致の結論。
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■無戸籍者 親が出生届を出さなかったなどの理由で戸籍がない人。出生届を出さない理由はさまざまだが、「離婚後300日以内に生まれた子供は前の夫の子供と推定する」と定めた民法772条の「嫡出推定」の規定の影響も指摘されている。本当の父親の子供と認められるには「親子関係不存在確認」や「強制認知」などの裁判手続きが必要となる。