横浜地裁で17日に開かれた相模原市の45人殺傷事件の裁判員裁判で、犠牲者の一人、美帆さん=当時(19)=の母親が検察側の論告求刑に先立ち、法廷で意見陳述を行った。「私たち家族、美帆を愛してくれた周りの人たちは皆、あなたに殺されたのです。未来をすべて奪われたのです。美帆を返してください」。言葉の一つ一つには、わが子を理不尽に奪われた無念さと悔しさがにじんでいた。
公判では、被害者特定事項秘匿制度に基づき被害者のほとんどが匿名で審理が進められているが、母親は「ちゃんと『美帆』という名前がある」として、初公判に合わせて名前を公表していた。意見陳述の際には植松聖被告(30)や傍聴人から母親が見えないよう、法廷内についたてが設置された。
美帆さんは自閉症で言葉を発することはなかったが、「とても人が好きで、人懐っこい子」だった。音楽が好きで、ドラマの主題歌やアニメの曲などに合わせて踊り、乗り物に乗ったときは楽しそうにしていたという。「笑顔がとてもすてきで、まわりを癒してくれました。ひまわりのような笑顔でした。美帆は毎日を一生懸命生きていました」。母親は、美帆さんと一緒に過ごした思い出をかみしめるように話した。
事件当日、連絡を受けた母親が、やまゆり園に駆け付けて目にしたのは、名簿につけられた「×」印だった。しばらくして、対面した美帆さんの体は、すでに冷たくなっていたという。「すごく冷たくて、一生忘れることができない冷たさでした」と、当時の心境を涙ながらに語った。