2010年代後半、囲碁の世界チャンピオンを打ち負かして一躍脚光を浴びた人工知能(AI)技術はもはや一過性の「(第3次)ブーム」などではなく、GAFA(※1)の席巻やCASE(※2)といった言葉に代表されるように、それ抜きではわれわれの未来は語れなくなっている。そんななか、東京大学がソフトバンク(SB)とともに「Beyond AI研究所」を設立する。わが国を支える産学の両雄は、いかにAIを「越え」、その先にどのような社会を築こうとしているのか。担当の藤井輝夫東大理事・副学長に聞いた。(編集委員 関厚夫)
次世代AI研究・事業化サイクルで日本を変える
「『日本のAI研究は米国や中国に比べて遅れている』との指摘がありますが、数理工学やロボット工学分野におけるAI関連研究では本学は世界のトップを常に走っているという自負があります。
本学が有する『AI知』を駆使し、またやはり世界の最先端をゆく物理学や脳科学などの分野の研究と融合させて基礎領域の研究を行うとともに、さまざまな社会課題を解決するための応用研究領域を展開し、そこで得られた成果を事業化することを考えております。
もう少し詳しく申しますと、次世代のAI技術を先取りした研究成果をベンチャー企業の立ち上げなどによって事業化する。そしてその事業化益を大学に還元することで、AI研究や人材の育成をさらに充実・加速させるといったサイクルを回転させる-そのようなエコシステムを構築するということです。
そこにはこの研究所の設立を通じて『社会における大学の役割を変える』という理念があります。代表(会長兼社長)の孫正義さんが『AIが社会を変える』といった意味のことをおっしゃっているSBグループとともに、その理念を具体化する最初の取り組みがBeyond AI研究所なのです」
〈Beyond AI研究所はまず今春、東大・本郷キャンパスに基礎研究を行う拠点を開設し、今冬にはソフトバンクの新本社(東京都港区海岸の竹芝地区)に両者が共同して応用研究を行う拠点を立ち上げる。従事する研究者は総計約150人。またSBグループ以外の企業にも参画の門戸が開かれている。