【カイロ=佐藤貴生】イランで新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない状態となっている。ロイター通信によると、感染者の致死率も10%前後と世界の平均とされる約3%に比べて格段に高い。感染者の発見と、隔離など必要な措置を取るのが遅れた公算が大きい。イラン当局が実態を隠しているとの報道もあり、1月のウクライナ旅客機撃墜に続いて政府の隠蔽体質を疑う声が国民から出ている。
世界保健機関(WHO)の公式サイトによると、イランでは2月28日の時点で245人が感染、26人が死亡。同国政府は翌29日、感染者は593人、死者は43人になったと発表した。
しかし、英BBC放送(電子版)は28日、イランの複数の病院関係者の話として、27日までに全土で少なくとも210人が死亡したと報道。保健省の報道官は「ウソを広めている」と批判した。
イランは中国に次いで最も死者が多い国となり、SNSでは政府への批判が相次いでいる。同国で初の感染者が出たと発表されたのは19日のことだが、これに先立つ11日にはイラン革命から41年を記念する祝賀行進が各地で行われ、21日には国会選挙が実施された。首都テヘランの男性は「政府は国民を大量動員する必要があったため、感染に関する情報を公開しなかったのでは」と話した。男性によると、「街頭では歩行者や車両も減り、多くの人が外出を控えている」という。
感染が急速に広がったとみられているのが中部のコムだ。イスラム教シーア派の聖地があり、巡礼者や留学生が多数やってくる。集団礼拝や宿舎での暮らしを通じ、感染が広がった可能性がありそうだ。
BBCは28日、イラン政府がテヘランや他の22の都市で金曜の集団礼拝を禁じたと伝えた。ただ、コムの聖廟では手洗いを行い、集団で長時間滞在しないことなどを条件に、出入りを禁じていないもようだ。
ロイター通信によると、国会選の当選者1人が感染により死亡。副大統領や国会議員5人のほか、ウイルス対策に取り組む保健省次官の感染も確認された。副大統領は感染が確認される直前、他の閣僚とともにロウハニ大統領との会合に出ていたという。