【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮は2日、約3カ月ぶりに短距離弾道ミサイルとみられる飛翔(ひしょう)体の発射に踏み切った。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は最近、政権中枢幹部2人も解任。新型コロナウイルスの感染拡大に備え、「国家非常防疫体系」への転換を宣言して統制を強めているが、経済や社会へのひずみも大きいとみられ、体制や軍の引き締めに苦慮する様子が浮かぶ。
「(北)朝鮮は今後も無敵の軍事力を保有して強化を続ける」。北朝鮮の主張を代弁してきた在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の機関紙、朝鮮新報は2日の記事でこう強調した。
後ろ盾の中国が新型肺炎への対処に忙殺され、トランプ米大統領が大統領選に傾注する中、金氏の合同軍事訓練視察や飛翔体発射には、軍事力増強姿勢と存在感を国際社会に改めて誇示する狙いがうかがえる。
同時に、国内に向けたメッセージも強いようだ。
金氏は先月末に党政治局拡大会議を開き、感染流入を阻止するための「超特級防疫措置」を討議させるとともに、党幹部養成拠点で「重大な不正・腐敗」があったとして李万建(リ・マンゴン)氏ら党副委員長2人を解任した。李氏は党幹部の人事を握り、党の中核といえる組織指導部のトップを務めていたとされる。こうした中枢幹部を2人同時に解任するのは極めて異例だ。
北朝鮮は感染者はいないとしながら感染防止のため金氏の肝いりで建設した東部、馬息嶺(マシンリョン)などのスキー場の営業も中止した。貿易の大半を依存する中国との国境も実質封鎖しており、経済的損失や国内の動揺は小さくないとみられる。
金氏が政治的活動を控える中でもあえて軍事訓練を視察し、中枢幹部を解任したのは、閉塞(へいそく)感や体制の緩みをこれ以上、放置できないとの強い危機感の裏返しといえそうだ。