未曽有の事故からまもなく9年を迎える今も、東京電力福島第1原発は「水」と闘っていた。放射性物質による汚染水は発生し続け、それを浄化処理した水を貯蔵するタンクは増え続けている。記者の眼前では海洋など環境への放出を念頭に、浄化・分析施設で厳しい水質管理が行われていたが、政府は風評被害への懸念から処理水の処分方法を示せないままだ。見通しではタンク用の敷地が満杯となるのは令和4年夏。決断を迫られている。(福田涼太郎)
■1003基のタンク
「非破壊検査などを行うので、タンク1基の完成に3カ月かかります」
敷地南側では処理水タンクの増設が進む。東電の担当者はタンクが手間をかけてつくられていることを説明した。このエリアのタンクは高さ直径とも12メートル、容量は1350トン。増え続けた計1003基のタンクが海側まで隙間なく並ぶ。約118万トンが保管され、年末までに137万トン分まで増設予定だ。
担当者は「もう(処理水の)処分を考えてもらわないと…」と漏らす。タンク群の存在は、今後の廃炉に必要な作業スペースの確保に影響を与えかねない。
処理水の元になる汚染水は、原子炉建屋の下部に流れ込んだ地下水が、溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れることで発生。平成30年度は1日平均約170トンもうまれた。それを処理する多核種除去設備(ALPS)の建屋に入った。
内部は放射性物質を取り除くための薬液処理をする設備や、フィルターが設置された吸着塔などが並ぶ。トリチウム以外の放射性物質はほぼ除去可能という。ただ、処理速度が優先された初期のころの処理水は、環境放出可能なレベルまで低減されていないものもあり、再処理が必要だ。
■近づく廃炉作業
続いて、処分方法を議論する上で不可欠な処理水の濃度などを測定する「化学分析棟」に入った。地下の分析場に入るには全身フル装備で、靴下や靴の履き替えも求められた。人体に付着していた放射性物質で、実測より高い濃度が検出されるのを防ぐためだ。