在日中国人社会に生じる新旧のあつれき:富裕層「ニューカマー」がもたらす変化

日本に住む中国人の数はすでに87万人を超え、日本社会におけるその存在感は増すばかりです。中国国内の経済的な不安定さや政治的なリスクを背景に、日本への移住を選ぶ人が増加の一途を辿る中、特にビジネスを主な目的としてコロナ禍以降に急増した「ニューカマー」と呼ばれる一部の層が、在日中国人同胞社会内で新たな摩擦を引き起こしています。

「金持ち風」を吹かす「ニューカマー」の傲慢さ

「『自分は客だ』、『俺はお前より上だ』という偉そうな態度がありありだった。本当に腹立たしい」。都内でコンサルティング会社を経営する30代の在日中国人男性、王さん(仮名)は、日本への移住を希望して中国からやってきた男性、陳さん(同)への憤りを露わにしました。知人の紹介で陳さんの日本のビジネスに関する相談に乗ることになった王さんでしたが、来日前からその横柄な態度に怒りを募らせていたと言います。

陳さんはまず、成田空港への出迎えを要求し、商談場所としては都内の高級ホテルのラウンジをわざわざ指定してきました。王さんが多忙を理由に出迎えを断ると、陳さんは不機嫌になり、商談の場となったホテルに対しても「設備は古いし地味だ」などとけなし、さらには日本全般に対して不満を語り始めたそうです。王さんは「彼は中国の典型的な金持ちタイプだった。『金持ち風』を吹かせ、『金を出す人間の言うことを聞け』と強硬に出るのが中国流のビジネスのやり方だが、私だけでなく日本までバカにされたような気持ちになって、とても悔しかった」と唇を噛みしめました。

日本でビジネス上の相談中に見られる、在日中国人間の意見の相違や文化的な衝突を象徴するイメージ。日本でビジネス上の相談中に見られる、在日中国人間の意見の相違や文化的な衝突を象徴するイメージ。

コロナ禍で加速した「中国脱出」と移住者の変遷

長年にわたり中国社会と在日中国人社会を観察してきた筆者の分析によると、日本に居住する中国人の多くは、1978年の中国改革・開放後に来日した世代です。彼らの主な目的は留学や出稼ぎであり、1980年代から2000年代前半にかけては、日中間に大きな経済格差があった時代でした。この世代の人々は経済的な苦労を経験しつつも、日本社会に溶け込もうと努力してきました。日本で学び、働くために日本語を習得し、日本の社会ルールを遵守して暮らしてきた人々が大半を占めます。

しかし、2010年に日中の国内総生産(GDP)が逆転するなど、中国が目覚ましい経済発展を遂げると状況は一変しました。「爆買い」ブームが始まった2015年頃を転換点として、経済力のある中国人が次々と日本へ移住してくるようになりました。この動きは、新型コロナウイルス感染症の世界的流行(コロナ禍)によってさらに拍車がかかり、今では留学や出稼ぎではなく、「中国脱出」を目的とした移住が主流となっています。

彼らのように、日本での会社経営などビジネスを主眼に、経営・管理ビザを取得して近年移住してくる中国人を、筆者は「ニューカマー」と定義しています。このビザで来日する中国人は2024年6月には約2万人に達し、2015年と比較して3倍近くに増加しました。ただし、在日中国人全体で見ればまだ少数派であり、彼らが日本で企業活動を行う際には、10年以上日本に居住し、日本を熟知している人々に頼ることがほとんどです。ところが、本来なら手を差し伸べるべき同胞であるにもかかわらず、日本社会に長く親しんできた既存の中国人住民たちにとっては、冒頭の王さんが指摘するように、「どこに行っても中国流を押し通す」ニューカマーたちの傍若無人な態度が目に余ることがあるようです。このように、在日中国人社会では新旧の世代間であつれきが生じているのが現状です。

在日中国人社会の未来と共存の課題

在日中国人社会は、時代と共にその構成と目的が大きく変化しています。かつては経済的困難を乗り越え、日本への適応と共生を目指した世代が中心でしたが、近年は中国国内の情勢を背景に、より経済力のある層がビジネスや生活の場を求めて日本に移り住む傾向が顕著です。この「ニューカマー」と呼ばれる新たな移住者たちが持ち込むビジネス慣習や価値観は、日本社会に長く根ざしてきた既存の在日中国人コミュニティとの間に、文化的な摩擦や対立を生じさせています。これは、単なる個人的な衝突に留まらず、在日中国人社会全体の課題として浮上しており、今後の日本社会における多文化共生のあり方にも影響を与える可能性があります。両者が互いの背景と文化を理解し、尊重し合う姿勢が、より健全なコミュニティ形成への鍵となるでしょう。