【地下鉄サリン25年】前内閣危機管理監 「事態対処医療」の早急整備を  





地下鉄サリン事件当時の状況などについて産経新聞のインタビューに答える元警視総監で前内閣危機管理監の高橋清孝氏

 地下鉄サリン事件から25年。事件当時の警視庁広報課長で、後に警視総監や内閣危機管理監を務めた高橋清孝氏に、事件の教訓をどう生かすべきなのか、話を聞いた。

 

 警視庁広報課長だった平成7年3月20日の朝、事件を受け、ある方針を井上幸彦警視総監(当時)に具申したことを覚えている。原因物質が判明したら即、発表するというもので、捜査1課長から「サリン」の物質名を発表してもらった。有機リン系毒物中毒と分かれば、医師は「PAM(プラリドキシムヨウ化メチル)」投与を選択できる。

 翌8年2月に警視庁警備1課長となって以来、災害対策に長く携わったが残念ながら日本社会は地下鉄サリン事件の教訓を生かし、テロに備える姿勢が大きく不足していると痛感した。

 内閣危機管理監となりテロだけでなく南海トラフと首都直下の両地震、東京大洪水、富士山噴火、大規模停電(ブラックアウト)、大規模サイバー攻撃、そして新型インフルエンザなどのパンデミック-などの国家的危機の被害想定を研究し、各省庁にヒアリングした。結果、国全体として想定や対応計画が極めて甘いということが分かった。

 警察庁警備局長だった25年4月、米・ボストンマラソンの会場で爆弾テロが発生した。この時の米当局の対処は地下鉄サリン事件当時の日本とは対照的だった。不幸にして3人が即死する一方で、医療を施された300人近い負傷者は深刻な状態の人も含め全員、命を取り留めた。

 米国ではテロ発生時の受け入れ医療機関をあらかじめ決め、搬送先には二次攻撃に備えたテロ対策部隊を配置することも含めた「事態対処医療」体制を整備している。テロは防ぎきれないことがあるとの認識に立って、被害最小化を図る考え方だ。

 地下鉄サリン事件にしても米国は外国のことなのに真剣に調査研究し、自国の対策に組み入れている。日本も生物、化学、核や爆発物などへの対応力は高めてきた。ただ最悪の最悪を想定し、初動救命から搬送先の医療機関情報の一元化、二次被害防止まで含め、地下鉄サリン事件の教訓はいまだに完全に生かされてはいない。五輪パラリンピックなどの大規模イベントを控え、「事態対処医療」の整備は喫緊の課題だ。

(聞き手 加藤達也)



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