【北京=三塚聖平】新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に深刻になる中で、海外在住の中国人の帰国が増えている。中国で感染者の報告が減っていることが影響しているとみられるが、帰国者の中には、海外で感染した人も含まれている。中国当局は感染者の「逆流」に警戒を強めており、中国メディアも帰国を控えるよう促す事態となっている。
解熱剤で症状隠し…帰国強行
「欧米先進国で感染状況が日に日に深刻になり、帰国を望む現地の中国人が急速に増えている」
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は16日付の社説でこう指摘した。中国の会員制交流サイト(SNS)上では、米国など感染者が急増する国から「急遽(きゅうきょ)帰国を決めた」と報告する中国人留学生などが少なくない。それに伴って航空券の高騰も伝えられる。
症状を隠して帰国を強行するケースも出ている。今月中旬には、重慶市出身で米マサチューセッツ州在住の女性(37)が、北京の空港到着後に感染が確認された。中国メディアによると、女性は米国で発熱やせきなどの症状があったが解熱剤を飲んで搭乗。健康状態を客室乗務員に知らせていなかった。北京の公安当局が感染対策を妨げた疑いで捜査しているという。
国内で反感「大変だった時、海外に」
現在、中国における新たな感染者は海外で感染したケースが中心だ。それを受け、北京では全ての入国者を原則として一律に隔離施設のホテルに移送し、14日間の医学的観察を義務付ける措置を16日に始めた。同様の措置は各地で広がっており、海外在住の中国人に帰国を踏みとどまらせる狙いもあるとみられる。
環球時報の社説は「国外の長期定住者は、できるだけその場に残って危険を避けるよう勧める」と帰国しないよう呼び掛けている。
中国国内ではこのような帰国者に対する反感もある。北京市に住む50代の男性運転手は「彼らは中国が最も大変だったときに海外にいた。感染した際の医療費の負担も中国の方が軽いといった理由で、今になって帰国してくるのは納得がいかない」と憤る。