【カイロ=佐藤貴生】パレスチナ自治区ガザで22日、新型コロナウイルスの感染者が初めて確認され、拡大への懸念が高まっている。イスラエルが人や物資の出入りを厳しく制限して「世界最大の監獄」とも呼ばれる状態が10年以上続き、経済悪化に加えて衛生・医療態勢への不安も大きい。国際機関は「感染が広がれば対応が追いつかなくなる」とし、隔離施設の増設など水際対策に全力を挙げている。
ガザ保健当局は22日、パキスタンからエジプト経由で入境したパレスチナ人2人の感染が初確認され、隔離したと発表した。広さ約365平方キロのガザには約200万人が住む。人口密度は約5500人で大阪府や神奈川県を上回る。
ガザに隣接するイスラエルの感染者は千人を超えた。皮肉にも、イスラエルが「監獄」と称されるほどヒトとモノの出入りを厳しく制限してきたことが感染拡大を防いだ形だ。
ガザは2007年、対イスラエル強硬派のイスラム原理主義組織ハマスがパレスチナの内部抗争で勝利して実効支配した。イスラエルはテロを警戒し、巨大な検問所を設けて不審人物や物資に目を光らせてきた。
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)などによると、ガザの住民の95%は清潔な水が使えず、電気は1日8時間しか来ない。稼働していない工場が多く、失業率、貧困率ともに50%を超える。
UNRWAの保健局長でアンマン在住の清田明宏さん(59)は、「感染が確認された場合、当初の対応はできると思う」とする半面、「住居環境が劣悪で医療サービスの能力にも問題があり、感染が一気に広がって対応不能になる危険性がある」と懸念する。
UNRWAは17日、ガザなどのパレスチナ難民の感染防止のため、今後3カ月間に1400万ドル(約15億5千万円)が必要だとする緊急声明を出した。イスラエル寄りの政策を打ち出してきた米政権は18年、UNRWAへの資金拠出の中止を表明している。