元看護助手の西山美香さんに再審無罪を言い渡した31日の大津地裁判決は、事件性を示す証拠は存在しないし、自白も刑事による誘導だったと強く示唆した。
西山さんを有罪とした確定判決で認定された死因は「人工呼吸器が外れ、酸素供給が途絶したことによる急性心停止」だった。
この点、再審判決は、死因を判断した根拠とされる司法解剖の鑑定書の信用性を疑問視し、「別の疾患で死亡した可能性が排斥されない」と判断した。
その上で、患者が死亡した当時、患者の血液濃度の数値が異常だったことや、遺体の気管から大量のたんが見つかった点を挙げ、「致死性不整脈やたん詰まりによる窒息死の可能性がある」と指摘。誰かがチューブを故意に外したとの事件性を示す証拠も存在しないとした。
西山さんの自白をめぐっては、信用性や任意性を明確に否定した。
弁護団はこれまで、「西山さんは迎合しやすい『供述弱者』で自白は虚偽。恋心を抱いた刑事に利用された」などと再三指摘してきた。
大西直樹裁判長はこうした西山さんの特性に強く着目。例えば、死亡直前に顔面が動かなかったはずの患者が「目や口を動かしていた」とした西山さんの自白について、状況証拠などと照らし合わせて「客観証拠と矛盾する」と指摘するなどし、西山さんの自白について「捜査員に誘導された疑いがある」と信用性を認めなかった。
逮捕前、厳しい取り調べに耐えかね、虚偽の自白をした西山さんは、態度を軟化させた担当刑事に恋心を抱いたという。再審判決は、この刑事が女性警官を室外に待機させ、取調室で西山さんと2人きりの状態をつくるなどした点を、「西山さんの恋愛感情を認識し、これを利用して供述をコントロールしようとの意図があった」と指弾。警察の思い描くストーリーに沿うように「自白を引き出した意図が強く推認される」とし、自白の任意性も否定した。