大手電力会社の送配電網を分社化し、本体から切り離す「発送電分離」が4月から始まった。太陽光など再生可能エネルギーを主体とする新電力が、送配電網を使いやすくする取り組みだ。
政府が進める電力自由化を柱とする電力市場改革の総仕上げと位置付けられている。電力会社の競争を通じ、料金引き下げやサービスの向上も促す。実効性ある競争が欠かせない。
その一方で電力業界に求められる最大の責務は、電力の安定供給である。この役割を忘れてはならない。市場競争の激化などで肝心の電力供給に影響が出るようでは本末転倒である。
最近は台風や地震などの自然災害による大規模な停電が頻発している。発送電分離に伴う組織分断で停電時の早期復旧に支障があってはならない。業界横断の復旧応援体制の構築も急ぐべきだ。
1日付で送配電網を本体から切り離したのは、関西や中部など各地の大手電力とJパワー(電源開発)の9社だ。福島第1原発事故を起こした東京電力ホールディングスは、すでに発送電を分離している。経営規模が小さい沖縄電力は対象外となった。
送配電部門の分社化で送配電網の中立性を確保し、新電力などが利用しやすくする。送配電会社がグループ企業を取引上優遇することは禁じられ、経営幹部は本体と役職を兼務できない。電気料金の引き下げにつなげ、契約者の利便性を高めてほしい。
電力供給の広域化にもつなげる必要がある。各地の送配電会社が連携を深め、全国規模で電力が柔軟に融通されるようになれば、夏や冬の電力不足などの緊急時にも対応しやすくなる。将来的には送配電会社の再編などにつながる可能性もあろう。
ただ、発電から送配電までの一貫体制が見直されたことで、災害対応などで懸念が残る。昨年9月に首都圏を襲った台風15号は、千葉県を中心に大規模停電を引き起こした。その際に復旧にあたった東電グループの送配電会社「東電パワーグリッド(PG)」は、復旧見通しを何度も修正するなど混乱を広げた。
電力自由化を通じた競争は不可欠だが、それを安定供給を妨げる要因にしてはならない。送配電会社は自らに課された供給責任を厳しく自覚してほしい。