日露両政府が国民間の信頼醸成や往来人口の拡大などを目的に進める交流事業が、新型コロナウイルスの感染拡大により相次いで延期に追い込まれている。国民レベルの交流と理解の深まりは北方領土問題解決の推進力になるとの期待が日本側にはあるだけに、事業延期は今後の平和条約締結交渉にも影を落とす。
今年の交流事業の目玉は、両国の都市間交流事業を各地で実施する「日露地域交流年」で、地方議会議員の交流▽経済団体や企業の連携▽学術研究の協力や留学生の拡大▽航空機の直行便開設・増発-など幅広い分野の事業が計画されていた。
ただ、両政府が5月半ばに札幌市で行うことで調整を進めていた開会式は新型コロナウイルスの感染拡大で延期が決まり、開催のめどは立っていない。感染収束の兆しが見えなければ、来年以降にずれ込む可能性がある。
例年5月に実施している日本人と北方四島のロシア人住民が旅券や査証(ビザ)なしで相互訪問する「ビザなし交流」も、渡航で使用する船舶内で集団感染する懸念が拭えないため、今年は延期する。
ビザなし交流と同時期に行っている四島への墓参や、元島民や家族がかつての居住地などを旅券やビザなしで訪れる「自由訪問」も延期となる方向だ。
交流事業の相次ぐ延期は、安倍晋三首相が5月9日にロシア・モスクワで開かれる対独戦勝75周年記念式典への出席を見送ることとも相まって、平和条約締結交渉の停滞を招きそうだ。平和条約締結交渉を支える事務レベルの協議も感染拡大の影響で開催の見通しが立たず、外務省幹部は「感染が収束するまでロシアとの協議は難しい」と肩を落とす。