【ニューヨーク=上塚真由】新型コロナウイルスによる肺炎で家族を亡くした人たちは、感染防止のため、最期の対面すらかなわなかったという悲しみにも苦しめられる。感染症の死と向き合うのにはどうしたらよいのか。先月30日に87歳で死亡した米南部ケンタッキー州の日系人女性、ケイコ・ニューツ(旧姓・荘(しょう)加(か)敬子)さんの家族は、病室とのビデオチャットで最期の時間を見守り、産経新聞の取材にその様子を語った。
ケイコさんにせきや発熱などの症状が出たのは3月6日ごろ。病院では肺炎と診断されたが、当時、米国では新型コロナの検査件数が少なく、ケイコさんも検査を受けないまま入退院を繰り返し、陽性反応と診断されたのは同25日だった。
近くに住む8人の子供たちは全員、入院先の病院の駐車場に集まった。1人だけ面会することが許され、防護服、高性能マスク、ゴーグル、手袋、靴カバーをそれぞれ2重に着用し、病室に。ケイコさんはかねてから蘇生(そせい)処置を拒否する意向を示しており、「人工呼吸器をつけなくても良いのか」と確認したが、ケイコさんの意思は変わらなかったという。
そこで、孫のレイシー・テーラーさん(29)は、病室にパソコン機器を持ち込んでビデオチャットを通じて、家族みんなでケイコさんを見守ることを提案。8人の子供に28人の孫と10人のひ孫。27日午後から入れ代わり立ち代わりビデオチャットをつなげ、30日朝にケイコさんが息を引き取るまで36時間続けたという。
レイシーさんは、ケイコさんが好きな賛美歌「アメイジング・グレイス」を演奏。孫たちは「おばあちゃん、愛しているよ」と繰り返し呼びかけた。病院の計らいでみそ汁、サケの照り焼き、焼き飯などの好物の日本食を差し入れることができ、日本食を食べると、元気を取り戻したように見えた。子供好きなケイコさんはひ孫が映ると、画面を触ろうとしたという。