新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、自宅待機の日々が続く。どうしても気分がめいりがちだが、そんな時手に取りやすいのが漫画だ。癒し系や日常系の作品を選ぶか、それともあえて長編や「古典」に挑むか…。漫画編集者でエージェント会社「コルク」社長の佐渡島庸平さんに、今読むべき5作品を尋ねた。
(文化部 本間英士)
「今は家の中で気分転換する必要があります。その際、漫画は(動画と比べて)自分のペースで読めるし、(活字本と比べて)手に取るまでのハードルが低い。読む際にすごく集中する必要はないけれど、深い世界観にがっつり入り込める。おすすめです」
緊急事態宣言に伴う外出自粛という異例の状況下、佐渡島さんは漫画を勧める理由をこう語る。
佐渡島さんは「ドラゴン桜」や「働きマン」、「宇宙兄弟」などの人気作を手掛けた敏腕編集者だ。現在は「コルク」でコミュニティー運営なども手掛け、従来とは異なる編集のアプローチに挑む。漫画の目利きである佐渡島さんは、以下の5作品が「今読むべき漫画」だと語る。
(1)「寄生獣」(岩明均著、講談社・全10巻)
人間に寄生し、他の人間を捕食する“謎の寄生生物”が社会を侵食する話。新型コロナウイルスという目には見えない脅威が世界を襲う現在、「僕にとって『生涯ベストワン漫画』であると同時に、今読み返すのに最もふさわしい一冊」だという。
人を食べる寄生生物。やがて反撃に転じる人間。物語は、主人公の人間・新一とその右手に寄生した「ミギー」という、いわば両者の“はざま”の視点から展開する。グロテスクな描写こそ多いが、本作のテーマは深淵(しんえん)かつ問いかけは哲学的。国内外を問わず、多くの創作者から支持を集めている。
「『人間とは何か』『人間は自然の一部ではないのか』を問いかける、あまりにも深い物語。特に終盤は、人類とコロナウイルスの今後の在り方を強く考えさせられます。全10巻なので手に取りやすいし、何度読んでも新たな発見がある。ぜひこの時期、多くの人に読んでほしい作品です」
(2)「進撃の巨人」(諫山創著、講談社・既刊31巻)
人間を捕食する謎の巨人たちとの戦いを描いた作品だ。物語の舞台は巨人が生息する異世界。高い壁に囲まれた街で平和に生きていた人々は、ある日突然壁を破壊し、侵入してくる巨人たちに蹂躙(じゅうりん)される。どうしていいか分からず、逃げ惑う人々。主人公の少年・エレンたちは、巨人たちと戦うことを決意する。
「『壁の内側に生きる人々』という設定は、今家にこもっている僕らと一緒だし、共感できると思う。コロナウイルスの問題もどう解決すればいいのか、今はまだ誰も正解が分からない。ウイルスを封じ込めることができずに広がってしまい、閉塞感が漂う今、読みたい作品です」
(3)「宇宙兄弟」(小山宙哉著、講談社・既刊37巻)
宇宙飛行士を目指す兄弟の絆と奮闘を描いた作品。幼いころUFOを見たことをきっかけに、まっすぐに宇宙飛行士への道を進む弟・日々人と、鬱屈した日々を送る兄・六太。諦めかけていた夢をかなえるため、再び奮起する大人はやはり格好いい。
「この作品も、宇宙という『閉鎖環境』を描いた話ですね。(登場人物たちは)宇宙服を着てコミュニケーションを取っていますが、それをつらいと思っていない人たちの物語です。彼らの生き方はすごく参考になるし、前向きな気持ちになれる。家族でぜひ読んでほしい作品です」
(4)「ちびまる子ちゃん」(さくらももこ著、集英社・全17巻)
昭和50年前後の静岡県を舞台に、小学3年の主人公「ちびまる子ちゃん」が家族や友人と繰り広げる愉快な日常を描いた作品。漫画はアニメ版よりピリリと毒が効いており、色あせない魅力を持っている。アニメは見ているものの、漫画版を読んだことがある今の子は意外と少ないのでは。
「小さい子供と一緒に読める作品です。外出自粛という状況下では、家族同士でイライラしあっている人も多いと思います。読めばのんびりした気持ちにするし、心が安らぐのでは」
(5)「ブッダ」(手塚治虫著、講談社手塚治虫文庫全集・全7巻)
仏教の開祖ブッダ(シッダルタ)の生涯を描いた古典的名作。シャカ族の王の長男として生まれたシッダルタは、人生の根底に潜む「生老病死」に思い悩み、29歳で国も家族もなげうち出家。やがて悟りを開き、「ブッダ」として説法の旅を続けた生涯を、漫画界の巨匠が独自の視点で描いた。
「そもそも『生きるとは何か』を問うた手塚治虫の代表作です。現代社会は情報量が多く、どんどんスピードが速くなっています。現在の状況は苦しいですが、『どういう風に生きれば幸せになれるのか』を考えるのにちょうどいい機会なのではないでしょうか」