【カイロ=佐藤貴生】エジプトなどの中東諸国は24日、ラマダン(断食月)入りした。健康なイスラム教徒は約1カ月間、日の出から日没まで飲食を禁じられる。各国は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、モスク(礼拝所)の封鎖などの対策を行っているが、友人や親族が集まって旧交を温めるのがこの時期の習わしで、感染封じ込めに向けて正念場を迎えた。
3月下旬から夜間外出禁止令を出しているエジプト政府は今月23日、ラマダン期間中の外出禁止の開始時刻を1時間遅らせ、午後9時からにすると発表した。
期間中は日没後、見知らぬ者同士が街頭に並んだテーブルに集まり、富裕層が振る舞う食事を食べるのが通例で、政府は集団感染につながるとして今年は禁止すると命じた。だが、夜間の外出禁止の緩和で知人らとの住宅での会合の時間は長くなる恐れがある。「人と人の距離を保つ社会的距離(ソーシャルディスタンス)が守られない」(カイロ在住の46歳主婦)と批判する向きもある。
サウジアラビアやイラクも期間中の外出禁止を一部緩和する。不自由な暮らしに断食が加わり、国民の精神的苦痛が倍増しかねないことに配慮した形だ。ただ、こうした判断が感染封じ込めと両立するかは見通せず、各国とも難しい判断を迫られている。
外出禁止令で自宅にいる時間が増え、不況や失業にいらだつ男性の家庭内暴力(DV)の急増も懸念されている。サウジ資本の汎アラブ紙、アッシャルクルアウサト(電子版)は19日付で、夫の暴力を受けたイラク人女性(20)が自殺を図り、収容先の同国中部ナジャフの病院で死亡したと報じた。8カ月間、実家に戻ることも許されなかったという。イラクでは最近、しつけのためだとして自宅内の柱に20日間、娘をしばりつけた父親もいた。
レバノン北部トリポリでは今月、幼女が父親に激しくたたかれて死亡した。同国ではDV犠牲者の支援団体への電話が急増しているが、家族の目を避けるため隣家から連絡してくる女性もいるという。ロイター通信によると、チュニジアではDVの相談件数が外出禁止令の発令前に比べて5倍に増え、政府は8カ所あるシェルターを増設する計画だという。
中東のイスラム圏ではこうした事例は氷山の一角にすぎず、各国で多数起きているとの見方が大勢だ。