【ニューヨーク=上塚真由】新型コロナウイルスの感染者が100万人を超えた米国では、最前線で働く医療従事者の負担が深刻となっている。症状が改善しない患者に対する思い、感染リスクへの恐怖、容赦ない偏見の声…。医師や看護師らを「社会のヒーロー」とたたえる動きが強まる中、渦中にいるニューヨーク州の看護師に思いを聞いた。
■想像を絶する過酷さ
同州ロングアイランドの公立病院に勤める看護師のエイミー・パチョークさん(41)は、3月末から夫(43)や娘(9)と離れて病院近くのホテルに滞在し、新型コロナの患者のケアに奔走する。
「一人で寂しいけれど、家族に感染させるリスクのほうが恐ろしい」。ホテルの滞在費は病院の労働組合が負担するが、過酷な勤務に疲労はたまる一方だ。
集中治療室(ICU)の看護師として12年の経験を持つパチョークさんにとっても、コロナ禍の過酷さは想像を絶するものだった。病院には今も、挿管を必要とする100人以上の重症患者が入院。通常の患者は人工呼吸器を使用する期間が数日だが、新型コロナの患者は長期化し、症状がそのまま改善しない人も少なくない。投与する薬も5~12種類と通常の患者よりも多く、「1日12時間以上働いているが、食事をとる時間さえほとんどない」。院内にあふれる患者のケアで、現場は手いっぱいだ。
■「看護師としてやりがい」
パチョークさんは「感染するリスクはもちろん怖い」と明かすが、「仕事をしていない時間は、患者がどうなっているのかさらに不安になる。社会の助けになっていることは、看護師としてとてもやりがいを感じている」と言い切った。
パチョークさんがホテルでの生活を選んだのは、基礎疾患を抱える家族のためだ。夫にはぜんそくの持病があり、実家の母親(64)は化学放射線療法を終えたばかり。「看護師でも症状がないと、ウイルス検査は受けられない。私が無症状の感染者だったら…と思うと、自宅から通う選択肢はなかった」と話した。
4月12日のキリスト教の復活祭(イースター)の直前には約2週間ぶりに自宅に戻り、家族と食卓を囲んだ。食事中も家族とは一定の距離を置いて接し、娘にはベッドシーツをかぶせてハグした。シーツを取り除こうとした娘を、感染を恐れたパチョークさんは泣く泣く拒んだという。