原作は東村アキコの人気コミック。小池栄子演じる「マグダラのマリア」の指示に従う“マリア・ファミリー”の一人、シェフの伊藤を演じる。
「生きていく上で欠かせない食、そして避けられない死。2つを同時に語る作品ってあまりない。全体のトーンも独特で、断トツのオリジナリティーを感じました」。作品に対する第一印象だ。伊藤については「殺すか殺さないかという、人間らしい葛藤が原作では描かれない。殺すという心理の温度は非常に冷たく、映像化した際にちゃんと恐怖として伝わるか」をテーマに演じる。ただ「過剰な演技にしたくない。いろいろ試して、あんばいは監督にお任せした」と語る。
「ビジュアルも原作に寄せたい」といい、撮影開始当初はエクステをつけて演じていた。ところが、コロナ禍による撮影中断もあり、「すっかり自毛で追いつきましたよ」と笑う。
主演の中村倫也や小池と一緒になるシーンは少ない。そんなときに頭にあるのがアル・パチーノの言葉という。パチーノとロバート・デ・ニーロ共演の米映画「ヒート」は3時間近い大作だが、2人の共演はわずか数分。「追う者と追われる者の立場でバラバラに撮っているが、パチーノは『音楽のレコーディングもバラバラに録るだろう。役者もできる』と。みんなとバラバラのときはその言葉を思い出すようにしている」と明かす。
演じる殺人鬼の負の感情については、「自分が日陰にいて、日の目を浴びている人を見ると、『なぜあいつが』と思う感情はゼロではない。その負の感情をポジティブに変換できれば」と話す。実はそれが役立ったのが筋トレという。「ちょっとイヤなことがあると普段出ない力も出る。その変換装置が筋トレにあることに気付けたのは幸運だった」
もうひとつのトレードマークであるサックスは30年超の相棒。「チェッカーズに憧れた」という少年時代からの付き合いだ。芸能生活30周年を記念したアルバム「BREATH OF LIFE」の発売も予定されている。「アルバム制作はお金もかかり、多くの人を巻き込む。今の時代、奇跡と思う」と周囲に感謝する。「健康や生活の安全があってのエンターテインメント。今は供給する側が試されている」とこれからも芝居に音楽にバラエティーにそして筋肉に、全身全霊を傾けていく。 (文化部 兼松康)
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たけだ・しんじ 昭和47年生まれ。北海道出身。「第2回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを獲得し、平成2年、ドラマ「なかよし」で俳優デビュー。主な出演作品にドラマ「NIGHT HEAD」「南くんの恋人」「若者のすべて」、ミュージカル「エリザベート」、映画「御法度」など。ミュージシャンとしても「OK!」などソロアルバムやシングルを発売している。